

「録り始める前は自分たちっぽい楽曲が多いと思っていたけど、実際にはアプローチ自体が変わっていた」。くるりの佐藤征史(B/Vo)は、15作目のアルバム『儚くも美しき12の変奏』についてApple Musicに語る。バンド結成30周年を控え、これまでの旅路を振り返るように紡がれた本作には、アイリッシュ音楽からR&B、メタルまで、多様な音楽が縦横無尽に詰め込まれている。タイトルに“変奏”という言葉を選んだ理由について、「同時期に作った曲が多いのでモチーフが似ている上に、曲のサイズを長くしたくなかった。そうなると一曲の中で使えるモチーフが一つか二つに絞られるので、必然的にそれらを変奏させる作り方になりました」と岸田繁(Vo/G)は説明する。今回はこれまでのセッション的な制作とは異なり、岸田が細部までスコアを書き込むという緻密なアプローチを採用した。アレンジを進める中で佐藤は、前作『感覚は道標』とはまったく違う手触りを感じていたという。「前作は(ドラマーの森信行を含む)3人で演奏して、ぐちゃっとした音が正義だった。でも今回は各パートが分離して、より主張する音が必要になった。最初はジャズベースで録ったけど、もっと粒立ちが欲しくてプレシジョンベースで弾き直した部分も多くあります」 アルバムの入り口となるのが、岸田が酔ったときに思うことを実際に酔いながら書いたという実験的な楽曲「たまにおもうこと」。「みんな言いたいことを言えばいい。それに尽きる」と、岸田はこの曲に込めた思いを語る。この自由で広い入り口から、アルバムはさまざまな世界へとリスナーを連れていく。ここからは2人に、いくつかの楽曲について解説してもらおう。 たまにおもうこと 岸田:この曲で言っているのは、生産性がない酔っぱらいのたわ言。頭の中で浮かぶことを、あえて文脈を持たせずに書きました。酔っていると、SNSで起きるエコーチェンバーのような現象が自分の中でも起こるんです。心の中にいる別々の人物がいろんなことを言い始めて、それが自己肯定にもなれば、自己否定にもなり、あるいは自己弁護にもなる。どうとでも受け取れるようにしたいという意図を佐藤さんがサウンドで読み取り、コンクレート風に仕上げてくれました。かなり異色で、1曲目にするしかないやろなって思えるほど強い存在感があります。 Regulus 岸田:この曲を書いたとき、キーがかなり低かった。キーってそれぞれ特性があるので、最初に思いついたものがやっぱり強い。どうしても無理があるときは動かすこともあるけど、半音変えるだけで全然別物になってしまう。この曲も一度キーを上げてみたものの、雰囲気が変わってしまってどうしようかなと思いました。ボカロにしてみるとか、高い裏声で歌うとかいろいろ試したけど、どれもしっくりこなくて。そこで“畳野ちゃん(HomecomingsのAyaka Tatamino)が歌ったらハマるかも”と思いついてお願いしたら、うまくいきました。 La Palummella 佐藤:Daniele Sepeにアイリッシュホイッスルを吹いてもらいました。ミラノに行って彼のボートに乗って遊んでいたとき、ふとDanieleがホイッスルを吹き始めて、その様子をたまたま映像で撮っていたんです。その音源を抜き出して「たまにおもうこと」の終盤に当ててみたら、めっちゃハマった。曲のために演奏したわけじゃないのに、自然と音楽になっていく。そういう瞬間が、自分の中で最高のインプロやなと思います。 C'est la vie 佐藤:ベースを弾くのが一番大変やったのは、この曲の2番のコーラス。指で弾こうと思ったけど無理で(笑)、オルタネイトピッキングにしました。こういう質感のサウンドは普段やらないから、合うアンプやエフェクターも手元になくて、電池入りのベースがあったらよかったなと思いました。 ワンダリング 岸田:エンドロールが必要かなと思って、最後にこの曲を入れました。映画でも“続編があるのかな?”と少し謎を残して終わる作品が好き。そこで言い切れなかったメッセージの残り香のようなものが漂うといいなと思って、この曲はまさにその役割にぴったり。曲調は違うけどジェイムス・テイラーの「Wandering」をイメージしていました。ヴァイオリンは『岸田繁: 弦楽四重奏作品集 第1巻 (Live at Kyoto Art Center, 2025)』のコンサートでも演奏してくれた若手のホープ、山田周さんがかなりいい感じで弾いてくれました。