感覚は道標

感覚は道標

「最初に映画(『くるりのえいが』)を撮ることが決まっていて、それならくるりの原初的なソングライティングからレコーディングまでの流れを見せたいなと思って、もっくん(森信行/Dr)を呼びました。この3人でやっていたのが、僕らのベーシックなやり方なんです」と、くるりの岸田繁(Vo/G)は、14作目のオリジナルアルバム『感覚は道標』についてApple Musicに語る。くるりのオリジナルメンバーであり、2002年にバンドを脱退した森信行を加えた3人が一丸となって制作した本作。佐藤征史(B)は「もっくんと曲作りをするのは20年ぶりくらいになるけど、ライブやレコーディングで一緒になることもあったし、お互い気遣いとかはまったくなかった」と笑い、森は「なんだか学生の頃に戻って、もう一度やり直しているみたいな感覚もあった」と振り返る。 楽曲は伊豆スタジオで、セッションしながら作っていった。岸田は言う。「もともと僕らは若い頃から練習するようなことがあんまりなくて、スタジオに入って音を出して遊んでいるうちに曲ができて、みたいなことばかりやっていたんです。今回もアイデアがまったくない状態から即興作曲に近い方法でネタ出しをして、みんながその場で反応しながら演奏し、曲にまとめていった。僕らはそれしかできないのかもしれないですね」。その言葉を受けて森は「1曲目の『Happy Turn』とか、まさにその面白さがあった」と言う。「すごいギターリフが来たから僕はこうたたいて、その次はこういう展開で…とどんどんインスピレーションが湧いて、感覚的にさっさと録っていく感じ。それがこの3人の形なんだと思う」。佐藤は久々に3人で音を合わせたことで気付いたことがあると言う。「もっくん(森)と一緒にやると、僕らは楽器の音量を上げるということが分かりました。彼のドラムを聴くと、すましてやっても意味ないなと思って僕も自然とテンションが変わる。その感覚が久しぶりに戻ったかもしれないです」 「朝顔」のイントロは、森がバンドに在籍していた頃の名曲「ばらの花」(2001年)を思わせる。これは岸田のアイデアが基になった。「スタジオに入っていろいろやり始めたらうまくいっている感じがしたので、余裕のなせる小ネタとして案を出してみたんですけど。そうしたらみんな、もちろん以前とは違う演奏ではあるけど、さすが『ばらの花』を作った人たちですねということをやりだして、すごくいいサウンドが録れました」。「LV69」もまた「LV30」(2001年)を思わせるタイトルでファンの心をくすぐる。曲名の“69”はロックにかけたと岸田は説明する。「ブルースベースのロックンロールもくるりの一つの特徴だと思うので。この曲は割と渋めのロックになるかなと思っていたんですけど、途中で何か別の要素が欲しくなってバグパイプを入れてしまったんですよね。そうしたら味変(あじへん)が起こって、意外とこれは生ハムメロンみたいな発明だなと(笑)。けっこう雑なやり方ですけど、ロックって雑なほうがいいねんな、とこの歳になって改めて思いました」 くるり流のドライブソング「In Your Life (Izu Mix)」は、かつて「ハイウェイ」(2003年)で「車の免許とってもいいかな」と歌った岸田が、20年越しで運転免許を取ったことから生まれた。「車を運転すると何かが変わる、と言う人が多くて、『そんなことあるかい』と思っていたんですけど、変わりましたね(笑)。ものの考え方とか、身体の使い方とか、いろいろ変わりました」と岸田は楽しげに言う。この曲で歌われる「あの頃無くした鍵は どうもこれだった」というフレーズは、今回久々に寄り集まった3人のことを歌っているようでもある。懐かしくも新しい車のエンジンをかけて、くるりの音楽の旅はここからまた始まる。

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