

コンセプト:「今振り返っても、一曲一曲の個性を強く出せたアルバムだなと思います」。あいみょんは2024年にリリースした5作目のアルバム『猫にジェラシー』を振り返り、Apple Musicに語る。前年には「愛の花」が朝の連続テレビ小説を彩り、世代を超えて広く愛される国民的アーティストへとさらなる飛躍を遂げた彼女。弱さや不完全さも抱える人間という存在を見つめたその歌は、多くの人の心を包み込んだ。 背景:デビュー時から心の機微を描き出すことに定評のあるあいみょんだが、本作ではさらに大きな視点で人間らしさの本質を捉えている。「毎作品、特に大きなコンセプトを設けてはいないですが、作り始める時は、このアルバムにはダークな曲を多めに入れようと話していたような気がします。結果、そこまで暗い曲たちが集まった訳ではなかったのですが(笑)。ドラマや映画のタイアップなど決まっている曲もあったので、新たに入れる曲は暗いというか、少し辛めな曲を選んだりしてバランス取ろうっていう感じでした」。何度も経験してきた恋愛でまた間違えたり、お酒を飲み過ぎて失敗したり、うまくいかないことをごまかそうとしたり。誰にも覚えのある自分の情けなさが、あいみょんの歌で表現されるとチャーミングに感じられるから不思議だ。サウンドプロデュースには、Tomi Yo、會田茂一、田中ユウスケ、関口シンゴ、ミツメの川辺素、鈴木 正人ら多くのミュージシャンが参加。中でも猫の視点で人間を描く「猫にジェラシー」では、文学作品にも通じる高い作家性を発揮した。「もともとストックにこの曲があって、そのままアルバムタイトルに採用しました。アルバムのタイトル曲が収録曲に入っていることが初めてなので、新鮮でした」 注目曲:フォーキーなサウンドの「駅前喫茶ポプラ」は、あいみょんのルーツを感じさせるナンバー。「行きつけだった地元の喫茶店がモデルになった楽曲です。2016年ごろに作った曲で、ギターの音も変だし、デモで歌っている声もめちゃくちゃ若かったんですけど、Sundayカミデさんにアレンジをお願いして、2024年の『駅前喫茶ポプラ』にアップデートしてもらいました」。アレンジには、気心の知れた2人ならではの空気感が反映されている。「この曲には男女2人の登場人物が明確に現れるので、ボーカルレコーディングの最中に男性コーラスが欲しくなり、Sundayさんに急きょ歌ってもらいました」。8年という熟成期間を経て、喫茶店で繰り広げられる2人の物語は、いっそう味わい深さを増した。 「あのね」は、黒柳徹子の自伝的小説を原作にしたアニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』の主題歌。「タイトルは曲を作り終えた後に付けたんですけど、サビとかの要所要所の歌詞の前に『あのね』ってつく感覚だった。語りかける、みたいな感じが自分の中のイメージにあったので。トットちゃんが『あのね、あのね』って話すような、あの感じもあったかもしれないです」。優しさの奥に寂しさをにじませながら、そっと語りかける歌声が「会いたい」「信じてる」といったシンプルな言葉に真実味を与えている。「ひたすらに頭によぎってくる言葉をつないでいたら今までリリースした楽曲の中で一番長い曲になりました。黒柳徹子さんに喜んでいただけてうれしかったです」 オリエンタルなメロディをエキゾチックなサウンドが彩る「ノット・オーケー」も、幸福感と切なさが入り混じる。「知人の話を聞いてひらめいた曲です。個人的にはかなりビビッときて、曲ができてすぐにスタッフさんに聴いてもらいました。ディレクターがとても気に入ってくれて、まだリリースもアレンジャーも決まっていないのに、デモにベースとドラムのリズムを入れてくれました」。恋の始まりと終わりを重ねて少しずつ大人になっていく世代の恋愛観を捉えたこの曲は、ノスタルジックな音色が世界をセピア色に染めていく。「デモの時から歌謡曲感があると言われたんですけど、作った時は特に意識していなくて、アレンジで一気にこの昭和歌謡感が出たような気がします。歌謡曲は自分のルーツでもあるので、こういう楽曲が自分の中に加わるのはすごく心強いなと思っています」 サスペンスドラマの主題歌となった「ざらめ」は「これまでのタイアップ曲の中ではわりとすんなり書けた」という。「ドラマの世界に身を寄せつつも、かなり自分の心境を書きました。無名の刃(やいば)、鉛の屑(くず)との戦いです。私の曲といえば『マリーゴールド』や『ハルノヒ』のようなミディアムテンポのバラードのイメージを強く持ってくださっている方も多いような気がしますが、デビュー当時のイメージが強いからか、鋭さや痛み、みたいな感情を求められることも多いですね。自分の中にあるいろんな振れ幅を見せたいとも思いますし、それを楽しんでもらえたら」。アルバムの中でも特にビターなこの曲の後に、優しさで包み込む「愛の花」に続く流れがまた感動的だ。 最後に:人間味にあふれた歌がそろい、ソングライターとしての成熟が感じられる本作。「アコギ色の強い曲から、ガンガンにギターが鳴る曲、女性目線と男性目線、声の出し方もアルバム全体に抑揚をうまく付けられたのかな」と、あいみょん自身も手応えを語る。光と影を映し出す歌はまさに人生のようで、人間とはなんていとおしい存在なのだろうと思わせてくれる。