「デビュー25周年を経た後に、このアルバムを作れたことが本当に幸せ」。aikoは16作目のオリジナルアルバム『残心残暑』についてApple Musicに語る。25周年を記念した前作『今の二人をお互いが見てる』から約1年半ぶりとなる本作は、その間に2度のライブツアーを挟んだこともあり、かなりハイペースで制作を進めた。「1日3曲録ったりして、デビュー時くらいの目まぐるしさでめっちゃ大変やってんけど。やりたいことをガッと集中してできて、自分にそのパワーが残ってることがうれしかった」とaikoは朗らかに笑う。「私はスタジオでいっぱい歌えるから『やった!』みたいな感じやったけど、スタッフの皆さんは相当大変だったと思います。このレコーディング中に初めて電子マネーの使い方を覚えて、それで最初にスタジオの自動販売機で買ったジュースをエンジニアさんにプレゼントすることもありました。そんな一つ一つの出来事がすごく楽しい思い出になって、これからも頑張ろうって思えました」 ハードスケジュールにもかかわらずレコーディングを楽しめたのは、ツアーを共に回ったバンドメンバーとそのまま制作に入れたからだとaikoは明かす。「私に歌う力をくれるのは、ライブに来てくださる皆さんと、心を通じ合わせて素敵な演奏をしてくれるバンドの皆さんだということを、ここ最近のツアーでいつも以上に強く感じました。だから私はステージ上では誰よりも元気でいたい。体の中にある“楽しい”をいっぱい届けて、みんなにも“楽しい”がうつってくれたらいいなって思ってます」。ライブ会場で共鳴するエネルギーが、いつもaikoを突き動かしている。 タイトルの『残心残暑』はaikoが考えたオリジナルの熟語。“残心”は武道において、最後まで気を抜かないという教えのことで、恋愛においてもそうした心構えが必要な時もあったとaikoは振り返る。さらに過ぎゆく夏への名残惜しさがにじむ“残暑”を加え、切なさと温もりに満ちたaikoの歌の世界を表した。「最近感じている気持ちがぎゅっと詰まったアルバムになった」と語る本作について、ここからはaiko自身にいくつかの楽曲を解説してもらおう。 blue パソコンで何か探してた時に、たまたま画面に「blue」という単語が出てきて、それを見た瞬間にメロディと「このハンカチ湿った夏の匂いがするな」のフレーズができました。いつもライブでお世話になっている小林太さんのトランペットが本当に素敵。柔らかくて温かくて、それでいて強さもあり、夕焼けを見てるような気持ちになります。 skirt 普段パンツスタイルが多い私にとって、スカートはここぞという大事な時にはくもの。この曲は恋が終わる時に、大事な思い出のスカートは二度とはきませんと告げながら、でも少し未練があるから最後に「じゃあまたね!」と歌っています。 相思相愛 この曲を映画『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の主題歌に選んでいただいたことで、出会えた人がたくさんいます。コナンくんファンの皆さんや、映画製作に向かうスタッフの皆さんの情熱や思いの強さに触れて、自分も音楽と向き合う姿勢はこうでありたいと思ったし、みんなにそう思ってもらえるような音楽を作れる人間でいたいとすごく思いました。歌詞にある「あたしはあなたにはなれない」というフレーズは、自分の中にずっとあるテーマ。人と人は気持ちを100%分かり合えることはできなくて、虚しさや孤独を感じることもある。だからこそ相手のことを、ささいなことも全部知りたくなるんです。 鮮やかな街 東京は夜になっても街に人がいるし、こうこうと電気がついていて、「本当に眠らない街はあるんやな」といつも思う。それでふと「自分はそこでちゃんと呼吸できてるのかな?」と思う瞬間があって、この曲ができました。Aメロの歌にボコーダーをかけたのは、アレンジャーのTomi Yoさんのアイデア。私はビビりなので新しいことにちゅうちょしちゃうことが多いんですけど、Tomiさんはいつも面白いチャレンジをして、私を新しい場所に導いてくださいます。 いつ逢えたら シングルのバージョンも大好きなんですけど、その後ツアーでバンドの皆さんが毎回違う演奏でどんどん更新してくださって、そのすべてが本当に素敵すぎて。その中で、この曲のアレンジをしてくださった島やん(島田昌典)のピアノでどうしても入れてほしいアドリブがあったので再レコーディングをお願いしたら、「それなら一から全部ピアノを入れ直そう」と言ってくださいました。この曲は星が流れるようなイメージで作っていて、今回終わり方も少し変えたので、星の流れ方が違って聞こえてくれたらいいな。 願い事日記 私の家には、楽しくなれるように好きなものだけを入れる引き出しがあるんです。もし、そこに好きだった人のかけらが残っていたら…と考えたことがあり、「引き出しには夢が詰まってるかもしれないから 開いてみたんだよ」というフレーズが生まれました。私は物に命を吹き込むゲームみたいなのが好きで、家の中に置かれた物は私のことどう思ってるのかな、とよく考えます。「私をここに置いといてどういうつもりですか」とかほんまは思ってんのかな、とか(笑)。そうやって毎日いろんなものを見るのが楽しいし、その目線で見たものが歌詞によく出てくるかもしれません。 よるのうみ 答えの出ない悩みごとをしている時に「そんなのは夜の海に引きずり込まれるのと一緒だからやめなさい」と言われたことがあり、「夜の海か…そっか、じゃあやめよう」と思えた経験から生まれた曲です。最初は水平線も見えないほど真っ暗な海を見ていたけど、Tomi Yoさんのアレンジが、夕方から夜にかかる時間帯の海へと連れて行ってくれました。「笑ってベッドに連れてって」という最後のフレーズに自分もすごく救われます。 赤い手で この曲を作ったのは冬。相手の手が赤くなってるのを見て、その赤い手で私と手をつないでくれたことで、私はもう今日一日本当に幸せだと思えたことがあって、その気持ちを書きました。(アルバムの)曲順はライブのセットリストを作るんやったらどうなるかなと考えながら決めていって。気付いたら、血管のように青で始まり赤で終わっていました。
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