

「愛って何なんだろう、というのが自分の音楽の永遠のテーマです」。冨岡 愛はアルバム『愛'sCREAM』についてApple Musicに語る。2025年春に大学を卒業し、音楽一本で歩み始めた彼女がこのファーストアルバムの1曲目に選んだのは、18歳の時に書いた「あなたは懐メロ」。4歳から15歳まで過ごしたオーストラリアを離れる際、友人たちが歌ってくれた思い出の曲をモチーフにしたこの楽曲は、彼女の音楽の原点といえる。「恋愛ソングだけではなく、家族や友達への思いや人生を生きる上での価値観など、これまで22年の間に感じてきたものを、よりリアルに言葉と音楽で残そうと思っていました」。本作に収録された12曲には、彼女自身の人生の断片が刻み込まれている。 「SNSは私の音楽に居場所を与えてくれた」と、路上ライブやオーディションなど、地道な活動を重ねてきた彼女は振り返る。「SNSのコメント欄にリアルな声が届くことで、すごくクリエイティブな影響があります。以前、『愛ちゃんが曲を出すたびに、その曲と同じ心境になる』とコメントしてくださった方がいました。『グッバイバイ』ではあいまいな恋愛に振り回され、『ジェラシー』ではやきもちを焼いて、『でもそろそろハッピーになりたいから、もし愛ちゃんがそういう歌を作ってくれたら、私の恋もうまくいくかも』と書いてくださったのを読んで、今回ハートウォーミングな『MAYBE』を書きました。ハッピーになれるのかというと…『MAYBE』なんですけどね」。“きっと幸せになれる”でも、“幸せになるために頑張ろう”でもなく、オフビートな空気感で「MAYBEが繰り返されてく日々」を描くこの楽曲には、圧倒的なリアリティが宿る。その等身大の感情が、多くの人の共感を集めている。 “愛の叫び”を意味する本作のタイトルソング「愛'sCREAM」は、その名とは裏腹に感情をそっとすくい上げるようなバラード。答えが出ない部分を含めて、愛の本質を語るこの楽曲にはシンガーソングライター冨岡 愛の静かな情熱がにじんでいる。「いろんな局面から愛を描けた」と語る彼女に、ここからはいくつかの収録曲を解説してもらおう。 あなたは懐メロ 私が初めて世に出した曲です。「1分4秒で流れる」というリリックは、オーストラリアの友人たちがお別れパーティーで歌ってくれた、映画『グレイテスト・ショーマン』の楽曲「A Million Dreams」のサビに入るタイミングを指しています。私が日本に帰ってからも音楽を頑張りたいと話していたので、みんなでこの曲を合唱してくれて、その瞬間「A Million Dreams」が私にとっての懐メロになったと思いました。 delulu 「delulu」は“妄想的”を意味する“delusional”を略して生まれた言葉で、SNSでよく見かけます。スペルがかわいくて、「推しとライブで目が合った気がする、deluluかも」みたいな感じで妄想をポップに表せる。現実の恋愛でも好きな人にdeluluになることは意外とあって、そんなちょっと歪(ゆが)んだ愛をしっかりとビートの効いたサウンドで表現しました。MVはどこか不穏な雰囲気で、私が無表情でハンバーグを作ってるシーンがちょっと怖いかも(笑)。一緒に映っているのは、私に無償の愛を注いでくれる愛犬のラブ。つまり、“愛”が“ラブ”を飼ってます(笑)。 デジャヴ 書いた時にちょっとセンセーショナルな感覚が残ったくらい、お気に入りの推し曲です。元カレと今の彼女がすごく幸せそうに見えて、それがなんか気に食わないという複雑な気持ちを赤裸々に歌っています。別に元カレがまだ好きというわけではないし、もちろん幸せであってほしい、むしろ幸せであるべきだと思ってる。でも心のどこかで、自分の変な負けず嫌いな部分が顔を出してしまう。「愛に会いたくなっているんじゃない?」という歌詞には、初めて自分の名前を一人称として使いました。きっと誰もがどこかで感じているようなことを表現したいという思いが強かったので、より人間らしさを出すために、本音を語るような感覚で自分の名前を入れました。 劣り 19歳の時に書いた曲です。当時は新宿や渋谷で、週に1回のペースで路上ライブをしていました。路上ではしんどい思いをすることもあって、東京にはあんなにたくさんの人がいるのに、誰一人自分の音楽に耳を傾けてくれないという現実を突きつけられることもありました。周りの人たちは、まるで“人生”というダンスフロアの上で華麗に踊っているように見えるのに、自分だけがリズムをつかめず、うまく踊れていないような気がして。だからこそ、路上で頑張る自分の背中を押せるような曲を一つ持ちたいと思って、「劣り」と「踊り」をかけたこの曲を書きました。歌詞には落ち込んだ気持ちをつづっているけれど、サウンドはあえて明るくしています。そこには、大好きなテイラー・スウィフトの影響が色濃く出ています。 831 タイトルは“ハチサンイチ”と読みます。アルバムの楽曲がだいたいそろってきた頃、最後に何か一つ足りない気がしていた時に生まれた、最後のピースのような曲です。「831」というワードは、ずっとアイデアノートに書き留めていました。ドラマ『ゴシップガール』の中で、ブレアがチャックに「I love you」を言わずに気持ちを伝えるセリフでも使われているのが、「Eight letters, three words, one meaning」。アルファベットで八つの文字、三つの言葉、一つの意味、つまり「I love you」をシークレットに伝える表現。私自身、これまで真っすぐな愛を歌った曲がなかったことがずっと引っかかっていて、だからこそ、ちゃんと1曲書いてみようと思って作りました。「あなたの教えてくれた好きなバンド」という歌詞は、「あなたは懐メロ」のフレーズ「あのバンドを教えてくれたあなた」とつながっているようにも聞こえるかもしれませんが、実は別の人、別のバンドのこと。誰かをもっと知りたいと思ったとき、私はまず「音楽、何が好き?」って聞くんです。そんな自分のこだわりを込めたくて、あえて似たフレーズを使いました。 愛'sCREAM 普段はギターで制作していますが、この曲は初めてピアノで作りました。本質的なことを素直に伝えたいと思った時、自然とピアノの音が頭に浮かんできたんです。ギターだと好きなコードが自然と出てきますが、ピアノは慣れていない分、めっちゃ時間がかかりました。私はせっかちなタイプなんですけど、慣れないピアノだと手の動きがゆっくりになり、一音一音を大切に弾く感覚があって、それがすごく楽しかったです。そのおかげで、自分の中の『愛'sCREAM』をこれ以上表現できる楽曲はないと思えるほど、満足のいく一曲になりました。