

音楽配信サーヴィスのなにが物足りなかったかといえば、まあ、物足りないことは多々あるのですが、そのひとつに「ECM Recordsの音源が聴けない」という事実がありました。 1969年の創業以来50年近くにわたって、ヨーロピアンジャズの牙城として、はたまた現代音楽や古楽や実験音楽の守護者として、他の追随を許さぬ高みに地位を築き、その聖域を一分のスキなく守り抜いてきたミュンヘンのレーベルは、高尚でシリアスな気分で音楽に浸りたいときには、絶対不可欠なアイテムなわけですが、それがこのたび、ようやくサブスクリプション解禁!めでたい!ありがたい! というわけで、早速にプレイリストをつくってみたのですが、どうつくろうとも各方面からツッコミが入りそうな「ベスト・オブ・ECM」みたいな切り口は避けて、ここでは、2017年にリリースされた音源のみに絞ってみました。 ECMの面白さは、何よりも早い時代から、ジャズ、クラシック、ワールドといったジャンルを横断しながら、それが単なる折衷主義に陥ることなく、空間的にも時間的にも隔たっていると見えた音楽言語の間に、それまで聴こえていなかった水脈を張り巡らせて、音を通して見た新しい「世界地図」をつくりあげてくれるようなところにあります。 2017年からの音源だけを拾っても、時代はルネサンス、バロックから現代、空間も北欧、ロシア、東欧、カリブ、インド、中東から極東までを自在に飛びまわりながらも、どこかですべてがつながってそうな気配を十分に感じさせてくれます。 音による考古学であり、音文化の地政学ともいえる、ECMの広大無辺な音楽世界/世界音楽。どのアーティストから入ってもよし。とにかくさまよい込んでみてください。そして2017年のこの世界の姿に、じっと耳を澄ませてみてくださいませ。 【2017.11.20】