ラップライフ:2020年

ラップライフ:2020年

「俺たちは外にいる(“We outside”)」とは、ラップのリリックにおいて頻出するフレーズだ。物理的に外にいるかどうかというよりは、その話者の立場がどこに属しているかを示すフレーズでもある。個人で行動していようと他人と共にいようと、外の世界の動きには準備ができており、そして文字通り、ストリートを仕切るために外にいる、という意味も持つ。しかし、2020年において、我々は外にはいなかった。パンデミックのおかげで家に閉じ込められ、手に入るものは全て、我々の最もパーソナルなスペースの中だけで処理せねばならなくなった。この時期は、Cardi Bとミーガン・ジー・スタリオンの「WAP」にとっては上手く作用した時期でもあった。まるでクラブでその曲が掛かるのと同じように、SNS上に「WAP」が響き渡ったからだ。同様に、リル・ベイビーもまた、「The Bigger Picture」をリリースし、現代のトラップミュージックのけん引者という立場から、世代を代表する意見者としてその立場を翻らせた。しかし、コロナウイルスが襲う前から2020年はすでに始まっていたことを覚えているだろうか。時代のサウンドトラックとなったロディ・リッチ「The Box」の、“エ・アー”というあの特徴的な声は今も耳に残っているはずだ。そして、ポップ・スモークがこの世を去ってしまったことを思い出すのは、今でも心が痛む。ポップ・スモークが灯した明かりが消されてしまった2020年2月19日、ラップミュージック界の音は全てストップしてしまった。彼が遺したものは、ブルックリンを代表する輝かしい先鋭ミュージシャンとしてのレガシーであり、アルバム『Shoot For The Stars Aim For The Moon』で証明された彼の潜在能力であった。本作は、デビュー作でありながら傑出した彼の才能を見事に表したアルバムである。いきなりその人生に幕を閉じたブルックリンのヒーローと、2020年のヒップホップカルチャーを形作った全ての楽曲と共に、もう一度あなたの耳を呼び覚ましてほしい。