Pharrell Williamsとチャド・ヒューゴによるプロデューサーユニット、ザ・ネプチューンズのマネージャーを務めるロブ・ウォーカーは、活動初期に業界関係者とのミーティングで彼らが演じた失態についてApple Musicのインタビューで語っている。2人は楽観的な気分でミーティングに臨んだものの、途中でPharrellが机の上に立ってラップしながら大騒ぎして、その場を台無しにしてしまったという。彼の頭の中にはアイデアがあり過ぎて、自分を抑え切れなかったのだ。「だってさ」と、Pharrellは申し訳なさそうに語っている。「あのころは若かったし、俺は牡羊座で、バージニア育ちなんだ。誰の言うことも聞かなかった」。しかし、そうした当初はマイナスになった怖いもの知らずの不安定な気質こそが、結果的に彼をモダンポップ有数の斬新なアーティストへと成長させたのだ。クリプスの「Grindin’」、ケリスの「Milkshake」、ネリーの「Hot In Herre」やブリトニー・スピアーズの「I’m a Slave 4 U」をはじめとするヒューゴとの数々の共同プロデュース曲から、ジャンルの境界線を曖昧にしたN.E.R.D名義のアルバムの数々、さらにソロのポップスターとしてのヒット曲「Happy」まで、Pharrellは同じシーンで活躍するほとんどのアーティストの一歩先を常にやすやすと進んでいるように見える。彼は伝統的かつ革新的なサウンドを生み出し、ヒップホップがメインストリームのポップとして機能し、ポップが過激でアバンギャルドな形を取り入れるという、今ではおなじみとなった世界を築き上げることに貢献した。後に彼は、自分は的を狙おうとしても大抵は外してしまい、ただひたすら手探りしながら前に進み続けるだけなのだと語っている。1973年にバージニアビーチで生まれたPharrellは中学生の時にヒューゴと出会い、20代初めにザ・ネプチューンズとして本格的に音楽活動を始めた。2人が一緒に作る音楽は、他のアーティストに提供するときも、盟友シェイ・ヘイリーと共にN.E.R.Dとしてリリースするときも変わらず、ハードコアなストリートラップから1980年代のニューウェーブ、ファンク、パンク、ジャズまで、さらに彼らの耳を捉えたあらゆるものを取り入れながら、これまでにないユートピア的なポップのイメージを打ち出すものだった。げっぷや、うめき声、宇宙船のレーザー音、ロッカーを拳で殴る感じの音など、音楽のようには聞こえない奇妙なサウンドであれだけ大勢の人を踊らせてきたプロデューサーは他に存在しないだろう。2010年代半ばまでに、Pharrellは『Despicable Me 2』収録の「Happy」や、ダフト・パンクの「Get Lucky」を手掛けたことで、ソロアーティストとしてスターになっただけでなく、アートやファッションの世界に飛び込んでストリートファッションをオートクチュールの領域にまで高めるなど、マルチタレントのクリエイティブアーティストとしても活躍するようになった。自分の作品に寄せられた期待に応えなければいけないというプレッシャーを感じたことがあるかと尋ねられた際に、彼はこう答えている。自分を動かすのはただ一つ、好奇心だけだ、と。