1960年代の終焉を決定的に象徴するアルバムがあるとすれば、それは『Paranoid』だろう。フラワーチルドレンや平和のシュプレヒコールや蛍光色が姿を消すのと入れ替わりに、壮大かつ凶暴なギターリフとオジー・オズボーンのうなるようなボーカルが登場し、最後の審判、麻薬依存、死の物語が語られた。もちろん始まりからこうだったわけではない。ビートルズファンを公言するBlack Sabbathのメンバーにも、サイケデリックに染まった時期があったのだ。しかし1960年代後半を迎えると、ベトナム戦争の死者数は増加の一途をたどり、バンドの故郷バーミンガムは第2次世界大戦の爆撃の爪痕をいまだ引きずっていた。そして労働者階級の若者たちを待っていたのは、思考力をまひさせるような単調な工場の仕事だけだった。
そうした絶望感の中、妥協のない猛烈なこのアルバムが生まれた。音楽評論家からは悪魔崇拝の戯言というレッテルを張られたが(本人たちはそれを逆手に取って宣伝に利用した)、実際はエリート階級を糾弾する痛烈なメッセージが込められていた。当初アルバムタイトル曲の候補にも挙がっていた「War Pigs」は空襲警報の音で始まり、やがて戦争をあおってばかりの腰抜け政治家の姿を浮かび上がらせる。史上最も耳なじみのあるギターリフの一つで知られる「Iron Man」では、一人の男が宇宙に旅立って人類の暗鬱(あんうつ)な未来を目の当たりにしたものの、帰還してそれを伝えられないというストーリーが語られる。「Hand of Doom」のテーマは兵士の間に広がるヘロイン依存であり、「Paranoid」はうつ病といった具合だ。
Black Sabbathはこうした重苦しい題材にふさわしい音楽表現として、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングなどとは遠くかけ離れたような、腹の底に響くドラムや荒々しいギターのサウンドを作り上げた。過度に演出されすぎているとの批判も多かったが、一般大衆はむさぼるように聴き入った。バンドはそれから2年余りで4作のアルバムをリリースし、自分たちの存在をはるかに超えるもの、つまり、ヘヴィメタルというジャンルを誕生させたのだ。そして今もなおアルバム『Paranoid』を魔性の源泉として、無数のバンドやサブジャンルが生まれ続けている。