LOST AND FOUND

LOST AND FOUND

「世界が急速に変わり続ける中で、この先どんどんなくなってしまうものに気付いておきたかった」。ROTH BART BARONの三船雅也は、9作目のアルバム『LOST AND FOUND』についてApple Musicに語る。2020年代に入ってからのROTH BART BARONは、これまで4作のアルバムや映画サウンドトラックの制作、国内外のコラボレーションなど、世界が立ち止まったコロナ禍にあっても歩みを止めることなく、むしろ創作のスピードを加速させてきた。 しかしその熱量の裏で、知らぬ間に三船自身の心と身体は均衡を失い始めていた。「前作『8』のツアー後半くらいから、ポジティブな感情が一切なくなってしまった。バンドのメンバーはツアーキャンセルの提案もしてくれたけど、音楽を通してお客さんとコミュニケーションを取る方が僕のセラピーになると思い、そのまま続けることにした。それは結果的にすごくうまくいったんですけど、その後にドーンと燃え尽きてしまって」。三船はメンタルヘルスの困難を経験しながらも、絶望しきることはなかった。「僕はわりとオプティミスティックなので、そうなったらなったで、そこから1年は自分をケアする時間として、ゆっくり音楽を作っていこうと思いました」 パンデミックの終焉(しゅうえん)後、ニューノーマルな日常が始まるとともに希望も顔をのぞかせたが、戦争や不況などが相次ぎ、世界は再び混迷の渦中にある。「テクノロジーの進化によって生活は劇的に変わったはずなのに、あんまり幸せを感じられず、人々は大きなクエスチョンの中に立ち尽くしている。それは日本だけではなく、ドイツで暮らしていた時も、アメリカを訪れた時も、どこかみんな悲しげで迷子になっているように見えました」。僕らは一体何を失ってしまったのだろう、そう考える中で、“遺失物取扱所”を意味する『LOST AND FOUND』がタイトルとして浮かび上がってきた。 三船もまた“迷子”の一人として、多くのセラピストと語り合った。そうした中で、彼はあるセラピーと出会う。その療法は、毎日自分に向かって「あなたは本当に素晴らしい人だ」と告げる習慣を持つというもの。三船はそれを新しい挑戦として受け止め、「今日はお花を一輪買えたから、おまえは本当に偉いよ」と自分に語りかけることから始めた。本作に収録された「“You're the Best Person in This World”」に「君はこの世で 一番美しい人」というフレーズがある。これは三船が自分に向けたものであり、この真っすぐな言葉を紡いだ時、彼は制作への喜びを取り戻した。「語り尽くされているかもしれないけど、今の世界では誰も言わなくなったものでもある。これは今のROTH BART BARONが歌わなくちゃいけないことだと、そう思いました」 本アルバムでは制作のスタイルを一新し、バンドメンバーとプロセスを分かち合うようになった。食卓を囲んで最近聴いている音楽を語り合うことから始まり、サウンドメイクも対話の中で進め、フィードバックを交わしつつ音を重ねていった。「例えばトランペットの竹内(悠馬)が吹いている音を、僕のギター用のエフェクトペダルで録りながら操作して、それを録音して不思議なテクスチャーを作ったりもした。いろんな工夫や、ひと癖もふた癖もあるプロセスがたくさん盛り込まれています」。サウンドはこれまで以上に緻密になり、透明感のある美しさをたたえ、生命の息吹を静かに刻んでいる。「『おまえホントに元気なかったのかよ』って言われそうですが(笑)、バンドのみんなのおかげです」 時代のスピードは加速し、人々はその変化に置き去りにされないよう必死に生きている。「日本の街もどんどん変わっていて、商店街で草団子を売っているおばあちゃんの和菓子店とか、たぶんこの先なくなっていっちゃうと思う。変わり続けるしかないんだけど、何十年かたった後になくなってしまったと気付くものに、今から気付いておきたかった」。三船にとってそれが『LOST AND FOUND』を作るモチベーションだった。「今、そんなに価値がないとされているものが、実はすごくキラキラしていて、100年後には大金をはたいても手に入らないものになっているかもしれない。そういうものを僕らはまだいっぱい持っているはず」。誰かがなくしたものは、遺失物取扱所でひっそりと眠っている。ROTH BART BARONの音楽は、その場所にそっと静かな光を当てる。