前作から2年4か月というブランクを余儀なくされて制作された新基軸の作品。歌い口はよりメロウかつ伸びやかに、ニューミュージックの規範ともいえるサウンドへと移行したことで、新たな聴き手を獲得することに。特に、山下達郎を想起させる、陽水にしては珍しいシティポップ路線の"愛の装備"、ニューオーリンズ風のビートと軽妙なリフを取り入れた"ダンスの流行"や"暑い夜"といったサウンドに、従来の叙情性を求めたファンは驚かされたことだろう。ただ、歌詞にはこれまで以上に多彩なメタファーが織り込まれており、留置場で書かれた"青い闇の警告"や、"ミス コンテスト"での意味深な歌詞にもかかわらず、暗鬱なサウンドに偏らず、シングルカットされるほどのポップソングとして成立していること自体に、井上陽水というアーティストのしたたかさと圧倒的な才覚を感じざるを得ない。
- 1973年
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- 1972年