

ソングライティング力の高さと甘い歌声の魅力が堪能できるセルフカバー作で、リリースと同時に大ヒットを記録した。安全地帯に書いた「恋の予感」「ワインレッドの心」、中森明菜の「飾りじゃないのよ 涙は」など、1984年12月発表の本作以前に他アーティストに提供した曲を自らが歌っており、やや抑え気味の美しい声と質の高いアレンジが存分に楽しめる。歌とサウンド、そしてジャケットには、洗練された都会の大人らしいムードがあり、幅広い音楽ファンに受け入れられた。もっとも当初はオリジナルアルバムの制作を計画していたところ、曲を作れなかったために急きょこの企画に変更になった背景がある。「タイトルは、全曲がセルフカバーではなく、当時の自身の最新シングル「いっそ セレナーデ」を収録したことから、その分をプラスして名付けたといういわくもある。これ以前の井上陽水は初期のフォークスタイルに比べると屈折した視点やシュールな作風、癖のある歌い方が際立ってきた段階で、それを思えばイレギュラーな作品と位置付けられる。ただしこの後の彼がさらに自分のペースで名曲を作り続けていった事実を思えば、本作の成功は、彼にとっても、そして音楽シーンにとっても、ポジティブなことだったといえるだろう。