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ロバート・グラスパーとは、大学1年の時に著名な作曲家ロイ・ハーグローヴのツアーに参加して頭角を現わした天才ジャズピアニストなのか、あるいはたまたまピアノを武器に選んだ熱心なヒップホップアーティストなのか。それは人によって、もしくはいつ彼の作品を知ったのかで変わってくるだろう。そして2024年2作目のリリースであり、Apple Music限定配信となるアルバム『Code Derivation』は、その問いに「両方でいいのでは?」と欲張りに答えてみせる作品だ。 これまで時間の都合でどちらか一方にフォーカスせざるを得なかったグラスパーが、今回はジャズとヒップホップの共通点を強調しながら、両方を足して2で割ったようなアルバムを作り上げた。このアルバムは基本的に、グラスパーがバンドとスタジオで生演奏したものと、彼が選んだプロデューサーが“フリップ”させた二つのバージョンによる曲で構成されている。「ジャズは文字通り、ヒップホップの原点だ」とグラスパーは言う。「だから“起源(derivation)”という言葉を使ったんだ。ジャズから派生したわけだから。俺は両方のジャンルの巨匠たちとプレイしてきたから、自分のバンド、つまり友達と作ったジャズの曲をやって、イケてるプロデューサーの友達にそれをサンプリングしてもらう、みたいな流れのアルバムをやってみたかった」 バンドのメンバーには、Walter Smith III、Mike Moreno、ケンドリック・スコット、キーヨン・ハロルド、ヴィセンテ・アーチャーが名を連ね、その大半はグラスパーがアーティスト/作曲家としてグラミー賞をいくつも受賞する前から長年ピアニストとして付き合いがあった面々だ。「俺の音楽人生は正統派のジャズだけじゃなく、特定のプレイヤーとの出会いからも始まった」とグラスパーは言う。「ウォルター(Walter Smith III)とMike Morenoとケンドリック・スコットとは高校が同じだった。文字通り一緒に育って、一緒にジャズの演奏を学んできた。キーヨンとは高校2年生の時にジャズキャンプで出会ったんだ」 プロデューサーには、Hi-Tek、ブラック・ミルク、カリーム・リギンズ、テイラー・マクファーリンといった友人やコラボレーターを迎え、さらにグラスパーが特にお気に入りだと認めざるを得ないゲストとして、息子のライリーが参加している。「俺が迎えるゲストは、いつだってとびきり最高の人たちだよ」とグラスパーは言う。「それが俺のやり方。ずっと共演したいと思ってきたり、単に俺が大ファンだったり、世界中で人気があったりする人たちだ。でも同時に、今は自分でも地位を確立して、ある程度基盤ができたから、(ファンに)必ずしもよく知られていない人たちでもどんどん使っていくことになると思う」 MCには、テキサス州ボーモント出身のJamari(息子ライリーと頻繁にコラボレートしている)、ミネアポリスのMMYYKK、ブルックリン生まれのOswin Benjaminといった比較的無名の若手ラッパーを起用し、彼らがこのアルバムのハイライトになったとグラスパーは言う。「実はもう少しでゲストは一人も入れないところだったんだ」と、彼は明かす。「ジャズの曲があって、それからビートがあって、それで終わりっていう。でも、土壇場になって、『ここにラップを入れてもいいな。そうすればヒップホップに持っていける』って思ったんだ」 実際、本作は素晴らしくゲスト重視の作品だ。ブラックミュージックにおける二大人気ジャンルを両立させたいという個人的な試みを実現するにふさわしい完璧なラインナップが集まっている。その作業自体には、グラスパーいわく、まったく苦労しなかったようだ。「自分が選んだ人を信頼していた」と彼は言う。「俺のコラボレーションがうまくいくのは、自分が出しゃばってやり過ぎないようにしているから。俺が誰かを選んだ時点で、それがプロダクションなんだ。その人が何をやろうとするのか分かってるし、それが最高にかっこよくなることも分かっているからね」