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ヴィオラ・ダ・ガンバとチェロは一見似たような姿をしていて、その響きにも近いものがあるが、楽器の家系図上では異なる先祖を持っている。フレット付きの指板を持つガンバは15世紀のスペインで生まれ、チェロは1660年代あたりにヴァイオリン属の楽器として生を受けた。 アニヤ・レヒナーは、豊かなイマジネーションと美しい演奏に彩られたこのアルバムにおいて、ヴィオラ・ダ・ガンバやチェロのために書かれた収録曲のすべてをモダンチェロとバロックの弓で奏でることで、しばしば混乱を招くこれら二つの楽器の区別を一層曖昧にした。その結果、カール・フリードリヒ・アーベルとトバイアス・ヒュームによるガンバのための作品からバッハのチェロのための組曲までが、それぞれの楽曲の本質を失うことなく、一貫したサウンドで奏でられている。 アルバムの冒頭を飾る三つの小曲は、17世紀スコットランドの傭兵で、いわゆる“日曜音楽家”だったトバイアス・ヒュームの作品。レヒナーは「A Question」 と「An Answer」の一つ一つのフレーズが表現の可能性に満ちていることを明らかにしながら、これら2曲のラプソディ的な性質を楽しんでいる。静かにかつ熱心に励ますような雰囲気を持つ「Harke, Harke」は、当時としては斬新だったピチカート(弦を指ではじく)とコル・レーニョ(弓の木の部分で音を出す)という、いずれもヒューム自身が考案したとされる奏法によって彩られている。 ドイツ出身で後半生はイギリスで活躍したカール・フリードリヒ・アーベルによる『ヴィオラ・ダ・ガンバのための27の小品 WKO186-212』の「Arpeggio in D Minor」は、時折見られる予想を裏切るような和声進行が印象的な楽曲であり、レヒナーはこの曲に驚くほどモダンな響きを与えている。続く「Adagio in D Minor」は同じくアーベルの作品で、その多彩な表現はバッハの無伴奏チェロ組曲を思わせる。そして、この曲を橋渡しにして次に奏でられるのがバッハの無伴奏チェロ組曲の『第1番』と『第2番』だ。レヒナーはこれら二つの組曲を、一つ一つの音とフレーズをたたえながら澄んだ音色で奏でている。 アルバムの最後を締めくくるのはヒュームがガンバのために書いた五つの小品。40分ほどバッハが続いた後に置かれたこれらの曲の自由で心地よい趣は、爽やかな食後酒の役割を果たしている。