async - immersion 2023

async - immersion 2023

「僕というデバイスを通して、坂本さんの作品をもう一度体験してもらいたかった」と、『async - immersion 2023』のサウンドディレクターであるZAKはApple Musicに語る。坂本 龍一が2017年に発表したアルバム『async』をベースに、高谷史郎が映像と美術を手掛けたサウンドインスタレーション『async - immersion 2023』。同作品はアンビエントをテーマにした視聴覚芸術の展覧会『AMBIENT KYOTO 2023』にて披露され、多くの人々を魅了した。会場となったのは京都新聞ビルの地下にある印刷工場跡地。この作品に音響ディレクターとして関わったサウンドエンジニアのZAKは、その時のことを振り返る。「あの展覧会が行われたのは坂本さんが亡くなられてからそれほどの時間が経っていない時期でした。だから、まずは坂本さんときちんと向き合うような場になれたらと思っていました。会場にはまだインクの匂いがあり、新聞を刷っていた頃の記憶が残っている感じがしたので、この世の空間に漂う無数の情報をただ感じられるような場所にしたら面白いかなという思いもありました」。本作はそのインスタレーションの体験をZAKが音源に落とし込んだ作品であり、ドルビーアトモスによる空間オーディオにより、まるで会場にいるかのような臨場感が味わえる。 本作を手掛けながらZAKは坂本 龍一の言葉を思い出していた。「坂本さんはよくM(ミュージック)、S(サウンド)、N(ノイズ)のお話をされていました。それら三つは分離したものではなく、同等にあるものだと僕は思います」。人が意識的に鳴らすM(音楽)に対し、Nとは“非音楽”と言い替えられるかもしれない。例えばそれは風や波の音であり、人が意識的に作り出したものではないが、人々の心を豊かにする。ZAKはこのアルバムで、その豊かな体験を感じてほしいと望み、そのために「Nを少し強調し、M寄りに持っていった」と言う。「具体的に何をしたかというと、展覧会の会場で、お客さんが帰られた後にマイクを何本か立てて『async』の全曲を録音し、空間を含んだその音源を結構使いました。また、サンプリングの手法を使って、地下っぽい残響を作り出したりもした。あの会場をキャプチャするために、いま一度フィールドレコーディングし直したということですね」 坂本は以前、『async』はアンドレイ・タルコフスキー監督作品の架空のサウンドトラックをコンセプトにしたアルバムであると語った。そして本作は、『async』から浮かび上がる映像をキャッチしたZAKが、自らの感覚を通し、聴覚的にアウトプットした作品と言えるだろう。そこには坂本 龍一と彼の作品に対する深い敬意と、坂本作品に長く関わったエンジニアとしての深い理解がある。ZAKは坂本を思い、愛情深く言う。「僕らはあんまり言葉で成り立つような関係じゃなかったから、今彼に何か伝えるとしたら…、そうですね、ハイタッチしたいですね」

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