

「長年やっていると、何も言わなくても自然と方向性が定まっていくんだなと実感しました」。OvallのShingo Suzuki(B)は、アルバム『Glimmer』についてApple Musicに語る。その制作はごく自然な流れで始まったと、関口シンゴ(G)は振り返る。「前作を出してツアーをして、フジロックにも出演して、少し時間が経つと、また作りたい気持ちが自然と湧いてきて。決め事もなくそれぞれ曲を作っていたんだけど、デモがあるかなって集まったら意外とあったから、じゃあアルバムにしようという話になりました」。ソロアーティスト/プロデューサー/プレイヤーとして活躍する3人は、ジャンルを超えて各方面から求められる存在であり、3人全員がスタジオにそろうことは容易ではない。それでも、制作のタイミングから音作りまで、驚くほどスムーズに決まっていったと関口は明かす。「デモを渡せば、他の2人がこうしてくれるだろうなって予想がつくし、いつもその予想をちょっと超えてくる。20年近く一緒にやってきて、3人の間に“あうんの呼吸”があるのが大きいですね」 本作は「Ray of Light」と「Calm in the Haze」という前後編の2部構成になっている。mabanua(Dr)によれば、最初からその形を想定していたわけではないという。「3人とも多面的に曲を作るタイプで、デモを持ち寄って色分けしてみたら、明るいところから暗いところまでグラデーションが広がっていた。それを一つのストーリーとして見せたら伝わりやすいかなと思った」。3人のアンテナが自然と指し示した先に、“かすかに見える兆し”を意味する『Glimmer』が生まれた。ここからは、メンバー3人にいくつかの楽曲について解説してもらおう。 Navy 関口:デモを作った人がミックスまで担当するのが基本なんだけど、僕は曲によってはエンジニアにもお願いします。例えばこの曲は生ドラムで、かなり動きもあるから、基本的には自分でやりつつ、最終ミックスはorigami PRODUCTIONSのエンジニア、藤城真人くんに託しました。彼とも付き合いが長くて呼吸が合うので、期待しながら任せられる。若い頃は全部自分でやりたい気持ちもあったけど、経験を重ねるうちに、ここは任せた方がいいっていう部分が冷静に判断できるようになった。丸くなったのかな(笑)。 Telephone feat. Nenashi 関口:デモのタイトルは「iPhone Beat」で、作ったのは2017年ごろ。当時Steve LacyがiPhoneでほとんどの楽曲を作っていると聞いて面白そうだと思い、GarageBandでデモ制作を試してみた。2~3曲作ってSNSに上げたり、Ovallをずっと支えてくれているキーボーディストの村岡夏彦さんと共同で投稿したりもしました。そのままお蔵入りになっていたけど、どこかで使いたい気持ちがずっとあって、今回引っ張り出してブラッシュアップしました。元はインストだったけど歌を入れてみようと思って、自分で“ラララ”を入れるうちに歌詞が欲しくなって。「ちょっとぜいたくだけど」と思いながらレーベルメイトのNenashiに作詞をお願いしたら、ハモりのラインや歌い回しを伝えるために仮歌を入れてくれた。それがめちゃくちゃ良くて、フィーチャリングの形で一緒にやろうという流れになりました。 Bloom feat. KIKI mabanua:2024年にタイでライブをすることになって、その前に以前から注目していたタイのバンド、KIKIとコラボレーションしようという話になった。KIKIは本来もっとハウス~テクノ寄りのスタイルだけど、ボーカルのHerenにはポップな方向も合うんじゃないかと思って明るめの曲調にしてみました。フィルターがかかったサウンドは、もともと一部にだけかけるつもりが、ミスで全体にかかってしまって。でもそのまま作業を進めてみたらいい感じだったので、全面的に採用しました。 Dirty Paws Suzuki:ライブで楽しめる曲にしたくて、いろんな要素を掛け合わせながら組み立てていった曲。Ovallを支えてくれているキーボーディストの別所和洋くんをフィーチャーしたかったので、彼の弾くローズをメインに据えて。鍵盤には、最近好きなキーボーディストのキーファーがよく使う分数コードを取り入れています。ドラムは、クエストラヴやクリスチャン・マクブライドが参加したThe Philadelphia Experimentのアルバムに収録された、ある曲のテンポ感を参考に、mabanuaに「こういうドラムをたたいてほしい」と投げました。タイトルは、Ovallのメンバーが集まってわちゃわちゃ演奏している姿を見て「泥だらけで遊ぶワンちゃんたちみたいだな」と思ったことがあって、そのイメージから付けました。 Needed Shimmer Suzuki:この2曲は、兄弟みたいな関係性。先に「Shimmer」があって、最初は軽いスケッチのような曲だった。それを少しアップデートしたものが「Needed」の原型になって、mabanuaのボーカルを入れたらカッコいいだろうなとか、関くんのギターが空間を作ってくれるだろうなとか、そんなことを考えながらいろいろこねて仕上げていきました。だからこの2曲は同じコード進行を使っているし、楽器やリズムにも共通点が多いけど、どこか違う表情もある。その流れを生かしたくて、アウトロの余韻として「Shimmer」を最後に入れる構成にして、連続作品のようにしました。