

5作目のスタジオアルバム『BITCH』のオープニングを飾る「A Toast」で、Lizzoはこれまでのトーンを一新する兆しを見せ、「他の誰かを傷つけて、あなたが幸せになれるといい/そしてすべてを失ってから、自分を見つめて…自業自得の結果になればいい(I hope it makes you happy to hurt somebody else/And when you lose it all, I hope you find yourself... And that you get what you deserve)」と歌う。この感情を解き放つような別れの曲をバックに、Lizzoが暗い部屋で一人ピアノの前に座り、ベースの音がうねり、ボリュームが上がっていく光景が目に浮かぶようだ。彼女はもはや自分のためにならない感情や人間関係に乾杯のグラスを掲げ、「心を解き放つためにしがらみを断って(letting go to free [her] mind)」いく。 『BITCH』は、これまで彼女に数々の賞をもたらし、チャートやフェスティバルのラインナップの頂点に押し上げてきたようなパワフルなアンセムから劇的な転換を遂げた作品だ。しかし、それでいいのだ。Lizzoはしばらくの間、必ずしも自身のヒット曲のように「最高の気分(Good as Hell)」ではなかった。だからと言って彼女は過度にポジティブなポップにもっと踏み込むのではなく、「Juice」の全盛期以降に経験した、複雑で厄介な状況と正面から向き合っていく。 タイトルトラックの「BITCH」では、1990年代の不安が漂うMeredith Brooksの同名シングルに2026年流の解釈を加え、「私を人間だけにはならせたくないあなた(You want me to be everything except a human being)」と歌って鬱憤(うっぷん)を晴らしてみせる。2022年の『Special』と2019年の『Cuz I Love You』が自己肯定に焦点を当てていたとすれば、アルバム『BITCH』のテーマは自己防衛と自立だ。 そのテーマが、かつてないほど率直で飾らない歌詞と、多彩なサウンドを取り入れる実験へと彼女を駆り立てた。2025年の「Love in Real Life」でThe Strokes風のロックに挑戦したこともあったが、今作の壮大なパワーバラード「Don’t Make Me Love U」や、ポップパンクのテンポで展開する「She Stole My Man」は、その意外性ゆえに新鮮に感じられる。 ワシントンD.C.のゴーゴーバンド、UCBをサンプリングした「Sexy Ladies」では、彼女のラップのフロウを再び堪能できる。そして圧倒的な彼女の歌声は、ミニマルなアレンジの上でこそ真価を発揮する。ゆっくりと爪弾かれるアコースティックギターに乗せて歌い始める「Like A Crime」では特にそれが際立っている。 『BITCH』での彼女は、確かに恨みを晴らそうとする。かつての友人たちを、まずは「A Toast」で「私を一番傷付けた人たちに乾杯(Here’s a toast to the ones who hurt me most)」と歌い、続いて「Too Nice」では「私の成功は私自身よりもあなたたちを変えてしまった(My come-up changed you more than it changed me)」とやり玉に挙げ、「Whose Hair Is This」や「Like A Crime」では元カレたちにも辛辣(しんらつ)な言葉を投げ掛ける。 しかし結局のところ、『BITCH』は復讐心や悪意よりも、希望と再起する力を歌った作品だ。「A Toast」で歌われるように、彼女は「やっと、なると誓った自分に初めてなれた(I’m finally who I said I’d be for the first time)」のだから。