

「今日という日を好奇心を持って新鮮に感じられる私、という意味を込めました」。UAはデビュー30周年を飾るアルバム『NEWME』についてApple Musicに語る。10年ぶりのフルアルバムとなる本作には、“新しい私”を意味するタイトルが付けられているが、それは劇的な変化ではなく、「ちょっとした好奇心の芽生え」を指しているという。その感覚との出会いは、カナダでの暮らしの中にあった。「しばらくヒットチャートとは距離のある暮らしをしていたんですけれど、子どもたちが成長して、ラジオから流れるヒット曲を彼らが口ずさむようになったんです。それを聴いていたら『わお、素敵なメロディね』って気になり始めて」。そんなある日、車中のラジオから流れてきた美しい曲に胸を射抜かれる。それが、2000年代のAppleの広告で使用された曲として知られるファイストの「ワン・トゥー・スリー・フォー」だった。一度聴いて覚えたその歌を友だちに歌ったところ、知らなかったのかと驚かれてしまったとUAは笑う。「それはまるで若い頃に名曲と出会ったような衝撃で、おかげでヒットチャートの音楽が、挑戦しがいのある実験的なものとして聞こえ始めたんです。そこから日本のポップシーンにも興味が広がり、どんどん掘り下げて聴くようになりました」。その中で出会った中村佳穂、折坂悠太、青葉市子、サカナクション、Tempalayといったボーダレスな感性を持つアーティストたちは、UAの創作に大きな刺激を与えた。本作でコラボレーションした荒木正比呂や西田修大との出会いも、中村佳穂にメールで“ラブレター”を送ったことから始まった共演がきっかけだった。 そうした偶然の出会いは音楽に限らず、UAの日常の中にあふれている。今日食べた梅干しが昨日より大ぶりだったこと、みそ汁の出汁を変えたら違うおいしさがあること。「それって、昔から日本人が持ってる感覚だと思うんです。例えば茶道も、同じ所作を繰り返す中で、自分のちょっとした成長や心の揺らぎに気付いていくでしょう? ああいうところに、幸せの秘訣(ひけつ)があるんじゃないかなと感じています」。目に見えないものの尊さや不思議さを感じ取り、ポップスへと昇華した本作について、ここからはいくつかの収録曲をUA自身に解説してもらおう。 NEWME ベースとドラムで参加してくれたmabanuaさんとは、やっとご一緒できました。この曲はすごく繊細で、ニュアンスを受け止めてもらうのは相当難しいと思いますが、mabanuaさんの演奏は「さすが」としか言いようがなくて、膝を打つくらい感動しました。実は最初、アルバムタイトルは『Happy』にしようと思ってたんです。でもこの曲の歌詞が書けた時に、自分の中で確かな手応えがあって。歌詞にある「素粒子の繰り返すリズム」や「つまびらかな色」が自分の中でウワーッと騒いで、『NEWME』しかないわって思いました。 ZOMBIE feat. 村上虹郎 (息子の)虹郎くんとの共演はすごく面白くて、あっという間でした。この曲は2020年からデモの断片があって寝かせていたんですが、1980年代オマージュのディスコテークに合わせて、サビで“ZOMBIE”って歌ったら妙にカッコよくて、そこから広がっていきました。誰だってゾンビみたいに過ごしてしまう瞬間はあるし、それは理不尽な世の中で前に進むために必要なことでもあると思う。ただ、それを無視するんじゃなくて、“今ちょっとゾンビだったな”って気付くことが大事なんじゃないかなって。X世代やミレニアル世代を意識して書いたけど、今の時代を生きる全員への応援歌でもあります。 WAKEUP feat. MFS 私がラップやりたいって、ほぼ冗談で、遊び心から生まれた曲。作曲してくれた荒木正比呂くんは、ゲストは男性ラッパーがいいと断言していて、その意図もよく分かる。ただ私としては本命であるMFSさんにお願いしたいと改めて推して、お声がけしたところ即答で引き受けてくださり、すぐにデモまで送ってくれました。そこからは驚くほど早く、シュッと完成に向かいました。 GORILLAS are still very shy 荒木正比呂くんとは5年かけてこの作品を作ってきました。彼のサウンドスケッチが150曲ほどもあって、ほとんどが数秒の断片なんですが、その中から私が本当に引っかかったものだけをピックアップして形にしていきました。荒木くんは自分のことをサウンドアーティストと呼んでいて、映像やCMの音楽、インスタレーション、ダンサーのための演奏など、アート寄りの活動も多いんです。150曲ものデモが一気に送られてきたのは初めてで、最初はあっけにとられましたけど、1年くらいかけてじっくり聴き込みました。 Twilight Before Sunrise 2017年に坂本龍一さん主催の『NO NUKES』で彼とピアノデュオとして共演した際、いつか作品を一緒に作りたいとお願いしていましたが、私の移住や出産も重なり、しばらく実現できずにいて。2022年、坂本さんの70歳を記念した企画のために彼の作品を聴き続ける日々があり、その圧倒的な創造性に触れて「なぜもっと早く動かなかったのか」と後悔し、すぐにメールで楽曲を依頼しました。1か月後に届いたデモは、フランス民謡のような雰囲気を持つシンプルな電子ピアノの打ち込みで、そこからどう現代のポップとして表現するかに時間をかけて向き合いました。坂本さんが亡くなられた後、背筋を伸ばして制作に取り組むうちに、命の循環とその不思議さを歌いたいと思うようになり、夜明け前のまどろみの中で自分の魂に触れる瞬間の、ほんの少し手前を描く曲へと育っていきました。今振り返っても胸に迫る、坂本さんの魂と対話しているような制作時間でした。