Light-Years

Light-Years

Nasの物語を語る上で、DJ Premierの存在に触れずに済ませることは到底できない。かつて、あの名高いヒップホップデュオ、ギャング・スターのプロデューサーとしても活躍していたDJ Premierは、当時まだ台頭期にあったクイーンズブリッジ出身のMCであるNasに3曲のビートを提供し、それが1994年の革命的デビュー作『Illmatic』を形作った。その関係は、『I Am...』や、見事な復活作となった『Stillmatic』といったアルバムでも続き、2人の名はヒップホップ史において強く結びつけられてきた。そうした背景を踏まえると、2020年代に入り驚異的な快進撃を経てきたNasにとってちょうどその折り返し地点ともいえるタイミングで、プリモことDJ Premierが全曲を手掛けたアルバム、『Light-Years』が登場したことは、ラップ界の運命が成就した瞬間のようにも思える。 当然ながら、最初の共作から30年の歳月を経て、2人は成長し、進化してきた。「GiT Ready」「Welcome To The Underground」でNasが言及する暗号資産のポートフォリオやサウジアラビアへの投資は、初期のスタジオでのコラボレーションに見られた描写とはあまりにもかけ離れている。それらは、NYCHAの公営住宅で育った少年としての出自に時折触れつつも、現代のビジネスパーソンとしてのNasをより的確に映し出しているといえる。ただし、このアルバムがノスタルジーに浸らないわけではない。序盤には、社会政治的な視点を帯びた「NY State Of Mind」シリーズ第3弾が配されているし、「Writers」ではグラフィティ黄金期の精神を呼び起こし、「Nasty Esco Nasir」では自分の本質を見つめるように、自身のラップペルソナを再訪している。 水準をさらに引き上げるのが、DJ Premierによるスクラッチを多用したシグネチャー的なビートだ。「Madman」の空洞的で冷ややかな響きから、「Pause Tapes」のカセットノイズが効いたグルーヴまで、その振り幅は時代を超えたクラシックへの回帰を感じさせる。彼の臆することのないサンプル選択は、ベテランとしての風格を漂わせ、「It’s Time」では1970年代半ばのファンクロックの名フックを再構築し、ラストの「3rd Childhood」では失われつつある最高峰のブーンバップという芸術を見事によみがえらせる。彼の底知れぬレコードコレクションと、Nasの膨大な韻の引き出しが融合することで、『Light-Years』は、2人の輝かしいカタログ作品の中でも際立った一作としてその存在感を放っている。