

「生活の中で感じる恐怖や、生きていて怯えてしまう瞬間…そういったものと向き合う内容のアルバムです」。CVLTEのaviel kaei(Vo)は、サードアルバム『PHOBIA SYNDROME』についてApple Musicに語る。2024年のアルバム『DIGITAL PARANOIA 2052』以降、4作のEPを発表し、初のテレビアニメテーマソング「realitYhurts.」で名を広めたCVLTE。その歩みは順調に見えたが、ソングライターのavielはシビアな現実に直面していた。「制作中、スランプで歌詞もメロディも出てこなくなり、クリエイティブな才能が枯れてしまったんじゃないかという恐怖に襲われた時期があったんです。そこから抜け出すために、不眠や対人恐怖、ステージに立つことへの恐れなど、自分が抱える恐怖の一つ一つと向き合い、自分自身を強くするためのきっかけとしてこの作品を作りました」 不調をきたしたavielの中から湧き上がるダークなイメージは、彼の愛するサイバーパンクの世界観と結び付き、ドラマチックな音楽へと昇華されている。中には「歌えない」のようにスランプの状況をそのまま刻んだ楽曲もあるが、痛烈さの中にもほのかににじむユーモアが絶望のその先を指し示す。イメージを具現化するために国境を超えたコラボレーションを重ね、フランスのオルタナティブバンドTSSや、アメリカのオルタナティブアーティストdemxntia、iRis.EXEが鮮やかな色を添えた。アルバムタイトルについて「収録曲の『shinjuku syndrome.』と『shibuya phobia.』から言葉をつなげた造語で、『恐怖症症候群』という意味」とavielは説明する。それは個の痛みから紡がれた言葉でありながら、多くの現代人が抱える不安や焦燥をも映し出している。内なる恐怖と深く向き合った本作について、ここからはavielに全曲の解説をしてもらおう。 the voYd. 「Yシリーズ」の最後を締めくくる曲です。何を作っても、何を成し遂げても満たされない「虚無」の感覚に悩まされた時期があって、自分が壊れてしまう前に世界が壊れてしまえばいいのに、という感情を歌いました。 realitYhurts. 『シャングリラ・フロンティア』というアニメ作品への書き下ろしです。現実が苦しいからデジタルの世界へ逃げ込むという、ゲーマーが持つ感覚やアイデンティティを込めました。自分のルーツであるロックとハイパーポップを混ぜ込み、アニメの曲でありながらしっかりとCVLTEらしさを表現できたと思います。 症状 (main menu) 2年ほど前に作ったピアノフレーズなのですが、次の曲への繋がりがすごく良くて。タイトルの通り、ゲームを始める前の「難易度設定」をしているような音のイメージです。ファーストアルバム収録の「savepoint.」と同じメロディを引用して、世界観の繋がりを持たせています。 shinjuku syndrome. どんな作品や音に触れても泣けない自分が、曲を作っている時だけは何かに憑りつかれたように感情が溢れることがあります。私生活での自分と、クリエイティブな瞬間の自分との乖離についての悩みを描きました。バックで鳴っているベルの音は、ゲーム『ドラッグ オン ドラグーン』のエンディングからインスパイアされたもので、あの独特の恐怖や虚無感を音に落とし込んでいます。 h2o.wav (feat. TSS) ロックシーン全体が熱量を持って盛り上がっている中で、自分だけがどこか冷めているような、なじめない感覚を持つことがあって。だったらその火がついたシーンに水をぶっかけて冷やしてやろう、という気持ちで作りました。フィーチャリングのフランスのバンドTSSは、デモの段階でボーカル(Matthieu Kirby)の声が脳内で再生されたので、すぐにオファーしました。 greedY. バンドを始めた頃、16~17歳の自分に向けたメッセージソングです。「この世界はみんな欲深くて、与えることより得ることにフォーカスしている奴らばかりだから、あまり期待しすぎるなよ」と。少し大人になった今の自分が感じている失望や教訓を歌っています。 歌えない アルバム制作の最後、本当に何もアイデアが出てこなくなってしまった時に、「もう歌えない」という状況をそのまま曲にしました。これほど全てをさらけ出している曲に、かっこつけた英語のタイトルは似合わないと思って、あえて日本語のタイトルにしています。 I hear a sound. 音に対しての悩みを整理するために書いた曲です。バンドをやっているくせに大きな音が苦手で、フェスの楽屋での音漏れとかも気になってしまうことがあるんです。トラックは、アメリカに住む長年の友人、Brody McKeeganとZoomを繋いで一緒に作りました。まだ一度も会ったことはないんですけど、画面越しに彼の部屋のアコギが見えたので、「それ使いたいから弾いてよ」って頼んで。そこからインディーロック的な柔らかいサウンドができたんですが、その上でただ綺麗に歌うだけじゃつまらないなと思い、あえてCVLTEらしく転換させました。 あと、ライブでうちのギターのTakuyaにアコギを持たせたら面白い絵になるかなと想像して作ったんですが、実際にやってみると普通にかっこよかった(笑)。アルバムの中でも少しオーガニックな雰囲気のある曲です。 eepY.EXE (feat. iRis.EXE) 一時期、本当に不眠で苦しんだことがあって、その「眠れない恐怖」について歌った曲です。これも頭の中でiRis.EXEの声が聞こえたので声をかけたら、1週間足らずでデータを送ってくれて完成しました。 bloodYhell. 世界はどんどん変わっていくのに自分がついていけなかったり、逆に自分だけが変わってしまって周りとズレていったり。そのギャップに苦しんで、「神様、なんで自分はどうしてこうなんだ」と問いかけている曲です。 whY. (feat. demxntia) 不健全な関係だったパートナーと離れた後、思い出が美化されて、また会いに行ってしまう…というハートブレイクについての曲です。こういう歌詞を書かせたらdemxntiaが一番上手いと知っていたので、彼と一緒に作り上げました。 恐れ (savepoint) 次に来る「shibuya phobia.」へのイントロダクションです。これまでは恐怖に対して「なぜ?」と自分に問い続けていた感情が、だんだんと怒りに変わっていく瞬間を音で表現しています。 shibuya phobia. このアルバムのメイントラックであり、生きる苦しみと、そこからの解放としての「ある選択」について深く考えた曲。奪われたものは取り返さなきゃいけないし、まだ自分にはやるべきことが残っている。これを聴いた人が、「自ら終わりを選ぶこと」に本当に意味があるのかどうか、もう一度考えるきっかけになれば嬉しいです。 allium. (1111) 「shibuya phobia.」がその問いかけだとしたら、この曲は「終わり」の概念そのものについて歌っています。暗くて苦しい曲ですが、だからこそ救われる人が一人でもいてくれたらと思います。 eoe. 自分の信念を貫く中で、他人の意見や信仰のために自分に嘘をつかなきゃいけないのか? と問いかけています。他人に合わせて自分を壊してしまったら、もう元には戻れないかもしれない。そんな危機感を描いています。 空虚 この曲、実はタイム(尺)を「16:16:16」付近になるように調整していて。「616」という数字はエンジェルナンバーで「悩みから解放されたポジティブな思考が、奇跡を起こす」という意味だそうです。アルバムを通して恐怖や苦悩と向き合ってきましたが、その空虚な時間の中にも、頭を使えば解決策があるかもしれないという希望を最後に暗示しています。