physical mind

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「メンバーそれぞれがこれまでに培ったものを本能的、直感的にアウトプットして作ろう、というモードでアルバム制作に臨みました」。マカロニえんぴつのはっとり(Vo/G)は、メジャーサードアルバム『physical mind』についてApple Musicに語る。前作『大人の涙』から2年半ぶりとなる本作では、メンバーたちが、まだ名もなきバンド少年だったころの顔をのぞかせる。ギターを手に思い付くまま歌の断片を口にしたことや、厄介な自分と向き合って頭を抱えたこと、青い夢や未熟な愛を語ったこと。ピュアな感情を抱え、衝動を持て余していたころの情熱が再び生き生きと響いている。ただ違うのは、粗削りだった表現が時を重ねて磨かれたことだ。「デビュー10周年という節目に、原点回帰も込めてフィジカルで録ったものが多いです。重ね録りや凝った曲構成はあまりしなかった」。努力して手にしたスキルを必要に応じてあえて手放す姿に、10年分の成熟がにじむ。 メインのソングライターであるはっとりを中心に、今回も各メンバーが作曲を手掛け、多彩な楽曲がそろった。センチメンタルだったり、やさぐれていたり、愛に満ちていたり、それぞれの歌の世界観をメンバー全員が共有し、音を奏で合った。「個々が単なるアレンジの役割を超えて、精神的な機微や思いをプレイとサウンドに純度高く乗せようと結集したバンドアンサンブル。まさに『physical mind』と命名するにふさわしい仕上がりだと自負しています」。誇りを込めて語るはっとりに、ここからは全曲を解説してもらおう。 パープルスカイ そういえば最初のころはもっと直感的にやっていたよな、とか思って。徐々に仕掛けや展開ばかりに凝るようになって、そうするとフィジカルは奥へ行くし、歯切れもちょっと悪くなる。だから今回は気持ちいいことを優先しました。体が動く通りにというか、心が向かうようにというか。それは今作全体に一貫しています。 いつか何もない世界で ぼくが過去に投稿していた弾き語り動画をまとめてSNSに上げてる人がいて、たまたま観たら「あれ? なんで当時これを作りきらなかったんだろう」みたいなもったいない曲がちらほらあった。過去のものとはいえ、せっかく良い断片があるならばと8年越しに完成させたのがこの歌です。 poole この曲はかなり短時間で作りました。シャッフルビートの軽快さも相まって、ちゃんと“思い詰めてない感じ”が漂ってます。奇抜なパンニング含め、中後期のビートルズサウンドをリスペクトしてます。 月へ行こう 誰かにとってきみが悪だろうとそんなことぼくには問題じゃなくて、ぼくが見てる(見たい)きみこそがすべてなんだ、という一つの愛。ハリボテの悪意に満ちた時代に必要な信念は、例えばそんなもの。簡単ではないけれど。 ロング・グッドバイ ギターよっちゃん(田辺 由明)作曲。壮大なスタジアムロックの雰囲気が良かったので、あえて歌詞のスケールは小さくしてみました。狭いワンルームを、きみが出て行ってから妙に広く感じてしまう寂しさ、のような。 きみは天使で キーボードの大ちゃん(長谷川 大喜)が子守唄をイメージして作曲した歌。ちゃんとウトウトするので、子守唄として機能していてすごいです。疲れた現代人へ、大人も癒やされるヒーリングミュージック。「ロング・グッドバイ」とは違って、むしろサウンドの雰囲気に寄せて歌詞を書きました。「ネクタリン」もそうですが、小さい子どもをイメージして書くと文体が柔らかくなり、かつ簡単な言い回しだからこそ普遍的な詩になり得ると思います。 NEVERMIND ローランドのシンセサイザー、JUNOシリーズに入っている、鍵盤ごとにトライアドのマイナーっぽい和音が割り当てられたプリセット。その中から気持ちいい配列をいくつか組み合わせてループさせ、浮遊した歌メロを当てていくという、コード進行やお決まりの展開みたいな概念を取り除いた状態でスタートした少し実験的な曲。自分を含め、メンバーみんなが手探りでアレンジしている時間が楽しかったです。 化け物 タイアップした映画『火喰鳥を、喰う』は、今まで我々に来ていたような系統とは異なるタイプのミステリー・ホラー作品。やるからにはこちらも雰囲気作りに一役買いたい!と気合を入れて制作しました。真っ向からパワーポップでぶつかりつつ、コーラスパートでのフルレンジシャウト、コテコテの1980年代ハードロック/ヘヴィメタル風ギターソロなど。また、最近のマカロニ曲ではCメロをやらない傾向にあったので、そういう意味で原点回帰感もあったり。強みだけを集約させた感じです。 高円寺へ 一人で録音した宅録ナンバー。高円寺の四文屋で一人飲みしながら聴くとベストマッチです。レバごま塩片手に梅割り焼酎をすすりながら。 静かな海 聴き手を信頼しているがゆえに、その愛を試したくなって「今度はあなたに救い出してほしい」と、以前よりも深い孤独に潜っていったような歌。知ってほしいけど分かってほしくはない、見てほしいけど触れられたくはない、みたいな面倒くさい部分のこと。 ハナ ベース賢也(高野 賢也)作曲。ノスタルジックな温かいメロディで、デモ音源の段階から好きでした。歌詞は、いま飼っている愛犬「イタチ」を思いながら犬の気持ちになって書きました。でも曲名が「イタチ」だと字面的に微妙だったので、数年前に亡くなった実家の犬の名前にしたところ途端に意味合いが変わって切ない歌になりました。ハナちゃん元気かなぁ。 忘レナ唄 テレビアニメ『忘却バッテリー』のエンディングテーマとして書き下ろした楽曲。全部がわかりやすい歌メロは嫌だけど、凝ったラインが何か所かあれば歌いやすいものもいいのかなと思うようになり、ムキに外しにかからなかった曲です。マカロニえんぴつは歌いにくいというか、覚えづらいとよく言われるので。 然らば テレビアニメ『アオのハコ』のオープニングテーマとして書き下ろした楽曲。大人としてのわきまえも持ち始める年頃ならではの諦めや優しさ、葛藤などが作中で描かれていて。だからじゃないけど、収まりのいいサウンドで鳴っているより、粗い音像の中で不完全な感情があふれている方が合うと感じ、ミックスもドラムを中心に極端につぶしました。 NOW LOADING 「然らば」があったからこそ、もう少し繊細な歌にしたいなと思い書きました。あまり自分から自然には出てこないメロディを探して、コードにそのまま素直に当てるのではなく、微妙に下がるメジャーセブンス感、アドナインスのコード上での響き方、みたいなところを意識しました。結果、新鮮なメロディにたどり着けた感覚はあります。また、サビ裏のオケで冬の雨のような冷たい温度感を出すのも試みの一つでした。 クレイジーブルース 自分の部屋で、作ったその場でマイクを1本立てて録りました。弾き語り曲はアルバムのたびに入れていますが、鮮度でいうとこの曲は特に“録って出し”感があります。壊れる寸前で耐えてる歌がほとんどの中、この歌は壊れてしまった先を歌っています。悲しいけど、それでも生活は進んでしまうのです。