ディズニー・ブック (デラックス・エディション)

ディズニー・ブック (デラックス・エディション)

ラン・ランは天賦の才能と長年のたゆまぬ努力によって世界に名だたるスーパースターとなったが、アニメーション映画の『トムとジェリー』に出会わなければ、ピアノに触れることはなかったかもしれないという。永遠のライバルにして“仲良くけんかする”主人公たちをコミカルに描くこのシリーズの一つで、アカデミー賞®を受賞した映画『The Cat Concerto(ピアノ・コンサート)』は、そのハイライトであるリストの『Hungarian Rhapsody No. 2(ハンガリー狂詩曲第2番)』のにぎやかな演奏シーンとともに、幼いラン・ランの心をわしづかみにしたのだ。そしてある日、家にアップライトピアノが届けられ、ピアノのレッスンは3歳の彼の日課となった。 そんなラン・ランがドイツ・グラモフォンから2022年にリリースしたアルバムの背景には、いつの時代も若者たちの感性を刺激し、多くの人々にクラシック音楽の魅力を伝えてきたアニメーション映画の力がある。ラン・ランは本作『ディズニー・ブック』で、サウンドトラックというものが発明されて以来ずっと子どもたちの記憶に深く浸透してきたという意味で、20世紀において最も影響力のあった文化事業の一つといえるディズニーのサウンドトラックのレガシーを、敬意と愛情をもって活用している。 「2019年にリリースした『ピアノ・ブック』は本当に大きな成功を収めました。このアルバムで初めてクラシック音楽に触れたリスナーがたくさんいたのです」とラン・ランはApple Musicに語る。「そして私たちは、次のステップとして何ができるだろうか、と考え始めました。もちろん『ピアノ・ブック 2』を作ることもできたのですが、それでは大した違いがありません。そこで私たちは、私の子ども時代の多くの部分を占めていたアニメーションについて考えるようになったのです」 アニメーションのキャラクターというのは、国境やさまざまな因習から解放されていて、何よりファンタジーを求める子どもたちの気持ちに応えてくれるものだとラン・ランは付け加える。「アニメは子どもたちにとって魔法のようなものです。もしあなたが、ある実在の人物の物語を子どもたちに教えたいのなら、アニメが一番です。それはまるで磁石のように彼らを引き付けて、現実でありながらファンタジーでもある不思議な世界へと連れて行きます。これこそ、子どもたちが一番好きなことなのです」 ラン・ランはアニメーションのサウンドトラックの世界を一通り見渡した上で、ディズニーに帰着した。「私たちは、このアルバムにはテーマが必要だと考えました。『トムとジェリー』『ルーニー・テューンズ』『トランスフォーマー』、日本のマンガ、『フリントストーン/モダン石器時代』などと、あちこち飛び回るのはナンセンスです。私たちの子ども時代は9割がディズニー映画だったと言っていいでしょう。だからディズニーに決めたのです。音楽的には『メリー・ポピンズ』がベストだと私は思います。『2ペンスを鳩に』や『お砂糖ひとさじで』など、あの映画の素晴らしい音楽をすべて聴いてみてください。これらに勝るものはないですよね。これまでで最高の曲ばかりなのではないかと思います」 折しもウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年に向けたタイミングでリリースされたこの『ディズニー・ブック』は、映画の歴史と音楽のスタイルを幅広く網羅している。『三匹の子ぶた』(1933年)の「狼なんかこわくない」や『ピノキオ』(1940年)の「星に願いを」といった初期のものから、『リメンバー・ミー』(2017年)の「リメンバー・ミー」や『ミラベルと魔法だらけの家』(2021年)からリン=マニュエル・ミランダ作曲の「秘密のブルーノ」といった現代のヒット曲も選ばれている。また『アナと雪の女王』(2013年)のエルサが歌う忘れられないバラード「レット・イット・ゴー」や、こちらも同じくキャッチーな楽曲で、ラン・ランが13歳の時に東京ディズニーランドで初めて聴いたという「小さな世界」(1964年)ももちろん収録されている。 ラン・ランとディズニーの組み合わせにはぜいたくなアレンジがよく似合う。アルバム『New York Rhapsody』のレコーディングでは、多くのボーカリストたちとの共演で自分が脇役に回ってしまうことが多かったと振り返る彼は、「この経験は、大きな教訓になりました」と言う。「これまで手を付けたことのない新しい分野では、失敗することもあります。ですのでこの『ディズニー・ブック』には、制作チームに“最高の編曲家を見つけなければ”と呼びかけました。スティーヴン・ハフ、トーマス・M・ローダーデール、ジュリアード音楽院出身のNatalie Tenenbaum、デヴィッド・ハミルトンといった人たちは、最も優れたアレンジをすることができる最高のミュージシャンたちなのです。私たちは信じられないくらい素晴らしい“ピアノ編曲家軍団”を編成し、このアルバムが社交界のパーティー風の音楽にならないよう、しっかりと制作に取り組みました」 ラン・ランが編曲者たちに対して、リストやホロヴィッツのピアノ用のトランスクリプションを念頭に置くように指示したことで、彼のピアノが背後に隠れてしまう心配はなくなった。ラン・ランは「私たちは真にヴィルトゥオーゾ的なものを入れたかったのです」と語る。「実際に映画『ダンボ』の楽曲『ベイビー・マイン』にはドビュッシーのような響きの部分があります。私はこのアルバムで、クラシックピアノの技術のすべてを輝かせたかったのです」 『ディズニー・ブック』では、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団との共演やソロピアノによるナンバー、そしてアンドレア・ボチェッリ、ミロシュ、ジョン・バティステ、二胡奏者のグォ・ガン、ラン・ランの妻であるジーナ・アリスといった豪華ゲストと奏でた楽曲で、ラン・ランのまばゆいばかりのピアニズムが存分に発揮されている。 「もしもディズニーのメロディの中で1曲選ばなければいけないとしたら、『星に願いを』ということになるでしょう」とラン・ランは言う。「とても象徴的な曲ですよね。最初はPharrell Williamsに歌をお願いしました。彼は曲が曲だけに、“他のことならなんでも引き受けるけど、この曲を歌うというのはちょっと心配だな。みんなが知っているメロディだけに、歌うのが難しいんだ”という感じでした。どうやら誰も歌いたがらない雰囲気でした。そこで妻のジーナに“歌ってみる?”と尋ねると彼女は、“ほら、私は本来ピアニストで本物のシンガーじゃないから。やってみましょうよ”と言ってくれたのです。そしてジーナの歌唱は見事なものでした」 自身もコンサートピアニストとして名高いスティーヴン・ハフは、「2ペンスを鳩に」をラフマニノフの前奏曲風にアレンジした。またNatalie Tenenbaumによる「メリー・ポピンズ・ファンタジー」のトランスクリプションは、快活で速いパッセージと過重な技術的課題を伴うもので、ラン・ランにかなりのトレーニングを強いた。「スティーヴンは本当に素晴らしい仕事をしてくれました」と彼は言う。「そしてNatalieの強烈なトランスクリプションを演奏するのはとても難しかったです。まさにリストとホロヴィッツを合わせたような感じで。弾いていて指がやけどするかと思いましたよ!」

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