

チェリストのカミーユ・トマがこのアルバムで美しく奏でるのは、不安からの希望や暗闇を照らす光を見出せるような音楽だ。悲しみに打ちひしがれたパーセル作「When I Am Laid in Earth」や、思慕の念を描くブルッフの「Kol Nidrei」、ノスタルジックなドヴォルザークの「Songs My Mother Taught Me」など、トマの音色には心の痛みを和らげるような美しさがあふれている。一方で、ドニゼッティの作品では愛の強さ、ワーグナーでは優しさ、モーツァルトでは揺るぎない心を表現する。ファジル・サイが2017年に作曲したチェロとオーケストラのための協奏曲「Never Give Up」は、パリとイスタンブールで起こったテロに音楽で抗議した作品で、力強く時には動揺するかのように流れ出る涙のようなチェロの音色や、狂乱を描く管弦楽の響きが衝撃的だ。楽観と強い意志が入り混じり、苦悩と悲嘆に対峙する現代の傑作は、平和を告げる鳥たちさえずりで幕を閉じる。