「僕らがもともと好きだったパワーポップに原点回帰した作品」。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Vo)は、『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』についてApple Musicに語る。彼らが2008年にリリースした『サーフ ブンガク カマクラ』は、江ノ島電鉄の駅名を各曲のタイトルに入れた画期的なコンセプトアルバムだった。「当時の僕らはバンド内でディスカッションを重ねて、息もできないくらい濃密な環境で制作していました。その中で、一度バンドを組んだ頃の気持ちを思い出して、少し肩の力を抜いてみようという感じで作ったのが『サーフ ブンガク カマクラ』。全曲一発録りで荒削りな部分があったし、5駅分の曲が足りないこともあり、いつか書き足して完全版を出せたら楽しいだろうなとずっと話していました」 2008年当時、自分たちの音楽性を高めるべく気を張って過ごしていた彼らにとって、『サーフ ブンガク カマクラ』はいわば回り道のような作品だったのかもしれない。ウィーザーの楽曲「Surf Wax America」をもじったタイトルには遊び心を感じるし、解放的なバンドサウンドからはパワーポップへのストレートな愛が伝わってくる。そして今回、完全版のために書き下ろした5曲の新曲のうち、「西方コーストストーリー」「日坂ダウンヒル」の2曲は旧駅名が採用された。その理由を後藤はこう語る。「昔の駅名を使うと少しノスタルジックな感じになる。それは、50手前の僕らが書き直す青春の音楽に相性がいいと思った」。そして喜多建介(G)は新曲について「どの曲も、歌詞とサウンドともに『サーフ』らしいルールを守って作ったので、元の10曲とうまくはまったと思います」と語る。 2008年版に収録された10曲は、完全版に入れるにあたって全曲再録音した。その際、歌詞を一部改変したものもある。例えば「鎌倉グッドバイ」の「こんな日々」というフレーズは、「そんな日々」に変わっている。「“こんな”だと近すぎる気がしたんです」と後藤は言う。「“This”と“That”では自分の中で距離感がだいぶ違う。それは青春との距離感なのかもしれないですね」。15年の時を経て完成した江ノ電をめぐる青春ストーリー。ここからはアルバムに収録されたいくつかの曲を2人に解説してもらおう。 西方コーストストーリー 後藤:このアルバムでは、バッキングギターは基本1本にしているんですけど、この曲だけは右と左に振り分けてダブルで入れています。ミックスが半ば出来上がった段階で他の曲と聴き比べたら、厚みが足りない気がして。そういう細かいところでけっこういろいろと努力しています。 江ノ島エスカー 喜多:2008年のレコーディングではオートワウというエフェクターを使っていました。グヤトーンのワウロッカーという紫色の小さいエフェクターなんですけど、今回録り直すにあたってまたそれを使ってみたら、今の自分にはちょっと合わない感じがして。それでギターテックの人とどのエフェクターがいいのかいろいろ試して、いいのが見つかりました。ワウのかかり具合はすごくこだわっています。 極楽寺ハートブレイク 後藤:この曲、ぜったい変則チューニングでやったんですけど、思い出せないのが悔しい(笑)。でも新しい方法を見つけたので、チューニングを変えずにできました。再録においては、15年前とは体や癖も変わってきているし、ガチのコピーを目指すと違和感があるだろうと思ったので、今の自然体でいいんじゃないかと思って演奏しました。 鎌倉グッドバイ 後藤:ストリングスのようなフワフワしたギターの音色が入っているんですけど、1本だと薄いと感じたので最後に足しました。ポストプロダクションを自分たちでできるようになり、昔よりずっと自分たちのサウンドを把握できるようになったのが、今の僕らの強みになっていると思います。
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