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
ここにあるのはただただ幸せに浸ることのできる音楽ばかりである。 VOLA & THE ORIENTAL MACHINE とはドラマーとして名高いアヒト・イナザワがフロントマンを務めるバンドである。NUMBER GIRL 解散後に参加していた ZAZEN BOYS を脱退し、その後に結成したのが氏の趣向を反映させるためのこのバンドである。ドラマーとしての彼を知っている人なら頷いて貰えると思うが、彼のドラミングは非常に独創的なのである。まるでそれで歌っているかのような、メロディーを奏でているかのような、リズム隊の範疇に収まらないリズムを刻むのである。そしてそれは、このバンドの楽曲を聴くことで納得できるであろう。彼はまさにドラムで「歌って」いたのであり、ドラムでメロディを「奏でて」いたのである。 僕はリアルタイムでNUMBER GIRL を体験できなかったし、NUMBER GIRL の解散もZAZEN BOYS からの脱退も残念に思っている。だけど、まさにその出来事によって「ドラマー」という枷から放たれたアヒトさんはついにその真価を発揮する。 恐らく神様はこう思っていたんじゃないだろうか? 「もう君の才能はドラムに限定されるものじゃないんだよ」 そう、僕は神様に感謝している。アヒト・イナザワという才能が、ドラマーにとどまらず、メロディメイカーとして、ボーカリストとして飛躍するきっかけを与えてくれたのだから。 このバンドのジャンルは形容し難い。オルタナ、ガレージ、シューゲイザー、ポストロック、ポストパンク、ニューウェイブ、パワーポップ、ビッグ・ビート、テクノ、エレクトロ……様々な切り口と要素が見える。 初期の作品はシンプルな音作り、衝動的な展開と奇天烈な構成、加えて凝ったギターの表現(時計の時報を奏でたり)で、まさに「ORIENTAL」な印象を抱くような音表現なのだが、キャリアを重ねるにつれて急速にデジタル・エレクトロの要素を取り入れて、軽快且つ爽快、そして煌びやかな曲調にメタモルフォーゼしていく。本人に自覚があるかは分からないが、キャリアの途中からの楽曲には80年代POPや90年前後までのアニソン的芳香を感じるのである。 彼らの音楽を例えるのはなかなか難しい。Avengers in sci-fi と言うにはあまりにテーマが自由だし、 SPARTA LOCALS というにはあまりにもポップ、the telephones というにはあまりにも感情表現が豊かで、BOOM BOOM SATELLITES というにはあまりに柔和で陽気なのだ。 しかし通底しているのはPOPさで、難解で拗らせている曲もあるものの、決してリスナーを突き放さない。それはアヒト・イナザワの紡ぐピュアで素直な歌詞も一役買っているのかもしれない。この世の理から恋愛感情まで、ストレートに吐き出している。 そして、彼の世界観を見事に実現しているバンドメンバーの理解と力量が楽曲の完成度を高め、心地良い音像を与えてくれるのだろう。 僕がVOLAを一言で言い表すならこうだ。 「80年代POPの現代ニューウェイブ的解釈」 しかしもちろんこれは御託だ。とにかく聴いてほしい。気持ちが爽やかに、幸せに染まるこの楽曲の群れを堪能してほしい。このプレイリストがアヒト・イナザワの、そしてVOLA & THE ORIENTAL MACHINE の沼に陥る一助になるのであれば、幸甚の一言に尽きる次第である。