ルーファス・ウェインライト:Pull over and listen!

ルーファス・ウェインライト:Pull over and listen!

ドライブ中に音楽を聴くことは、人生における大きな楽しみの一つだ。旅は、人を日々のストレスから解放し、何物にも邪魔されることのない時間を与えてくれる。しかし時として、ドライブ中に流れてきた音楽が、運転をしながら聴くには素晴らし過ぎる場合もある。アメリカのシンガーソングライター/作曲家のルーファス・ウェインライトは、このうれしくも悩ましい問題について分かり過ぎるくらい分かっている。「運転中に突然心を打たれ、じっくり聴くために車を止めなければならない音楽があるのです」と彼はApple Music Classicalに語る。 例えば、バッハのほとばしるようなエネルギーやサティの流れるような美しさ、はたまたプロコフィエフの叙情性と遊び心を感じたとき、あなたは車を止めてその音楽に聴き入るのではないだろうか。あるいは、メシアンの風変わりな音世界、ヴェルディによる燃えるような『レクイエム』、シューマンによる『ピアノ五重奏曲』の心を溶かす第2楽章の名演を耳にしても、同じことが起きるだろう。これらの音楽はいずれも、車を脇に止めてエンジンを切り、音量を上げる絶好の口実になるはずだ。 このプレイリストにはオペラからの曲も多く収録されている。その中には、ウェインライトが車の中で音楽を聴いた記憶の中で最も古いものにまつわる曲もある。彼は母親が運転する車に乗っていて、ラジオからフランツ・シュミットのオペラ『ノートル・ダム』の間奏曲が流れてきた時のことをよく覚えている。「当時はまだ車にアンテナが付いていました。母は車を降りて、音楽がよく聴こえるようにアンテナを激しくいじり始めたのです」と彼は回想する。 オペラ作曲家たちが物語を推進していく様子にわくわくさせられるというウェインライトは、プッチーニによる『蝶々夫人』の第1幕からも選曲している。「この音楽は主人公の繊細な性格と悲劇的な運命を完璧に描写しています」と彼は言う。またウェインライトは、ワーグナーによる『ローエングリン』の高揚感と祝勝ムードにあふれた第3幕への前奏曲にも注目を促す。「ワーグナーは、聴き手を音楽で鼓舞しながら、オペラの筋書きを巧みに進めていきます」 これらの音楽を聴いたウェインライトは、車を止めるどころか、むしろ速度を上げているのではないだろうか。