

クリスマスツリーの前や教会のキャンドルサービスで歌われるクリスマスキャロルは、ホリデーシーズンには欠かせないもの。キャロルの中にはその起源を中世にまでさかのぼれる曲も多くあるが、それらの古い曲も新たな編曲版で演奏されることによって、新鮮な輝きを放ち続けている。毎年、この『クラシック・クリスマスキャロル・カバーソング』では、キャロルやクリスマスにまつわる名曲が本来持っている魅力を大切にしつつ、アーティストたちに、時に斬新な、時にモダンなアレンジを加えてもらうという試みを行っている。このプレイリストに収められたクリスマスキャロルの“カバーバージョン”は、クラシック音楽の名曲の新しい魅力を発見する機会を与えてくれるはずだ。2025年は、ピアニストのフランチェスコ・トリスターノとケンブリッジ・ペンブルック・カレッジ礼拝堂合唱団が、「The Friendly Beasts」と「Silent Night」を新たなアレンジで演奏してくれた。これらの新編曲版に加え、これまでのクリスマスシーズンに編曲、演奏、録音されたキャロルのカバーも含まれているこのプレイリストには、独創的なアプローチによる美しい音楽が並ぶ。このイマジネーション豊かで喜びにあふれたセレクションを、ぜひ空間オーディオで楽しんでほしい。 アンナ・ラップウッド & ケンブリッジ・ペンブルック・カレッジ礼拝堂合唱団「きよしこの夜」 アンナ・ラップウッド:ジョナサン・ラスボーンがジャズのエッセンスを取り入れてアレンジしたフランツ・クサーヴァー・グルーバーの「きよしこの夜」は、ここ数年、私たちのクリスマスキャロル礼拝の定番になっています。いくつかの上声部で歌われる最初のバースの後、テノール歌手のSebastian Blountが歌う2番目のバースでは、AフラットメジャーからEメジャーへの意外性に満ちた転調が起こります。そして、最後のバースではDフラットメジャーに落ち着きます。これは私たちのお気に入りの調性です。クリスマスに、キャンドルの明かりだけで照らされる、しんと静まり返った満席の礼拝堂で合唱団がこの曲を歌うのを聴くと、いつも特別な感動に包まれます。 フランチェスコ・トリスターノ「The Friendly Beasts」 キャロルの起源に立ち返りたいと考えていたとき、13世紀フランスのある歌が私の注意を引きました。その曲は19世紀に「The Friendly Beasts」として知られるようになって、20世紀以降にはHarry Belafonteやジョニー・キャッシュ、スフィアン・スティーブンスをはじめとする、多くのアーティストたちにカバーされています。私のバージョンでは、中世の教会旋法の雰囲気を取り入れつつ、クリスマスキャロルらしい厳かなハーモニーを加えました。そして、私としては初めて、土台となるリズムをシャッフルにしています。この曲を皆さんに聴いてもらえるのは、とてもうれしいことです。 角野隼斗「It’s the Most Wonderful Time of the Year」 両親が持っていた『The Andy Williams Christmas Album』は、子どもの頃を思い出させてくれます。おととしニューヨークに引っ越して、クリスマスにはこのアルバムを聴きながら街を散歩しました。この曲をカバーすることにしたのは、私に大きな幸福感をもたらしてくれる不朽の名作だからです。お祝いムードにあふれたビッグバンドのサウンドと優雅なスウィングワルツに胸が高鳴ります。ピアノソロでこの雰囲気を再現するのは難しいことかもしれませんが、私にとって演奏するのが最も楽しいジャンルの一つであることは間違いありません。 アナスタシア・コベキナ & ジャン=セリム・アブレルモウラ「Coventry Carol」 アナスタシア・コベキナ:「Coventry Carol」は、その起源を16世紀のイングランドにまでさかのぼれる最も古いクリスマスソングの一つで、聴く者の心を強く揺さぶる曲です。私は、この曲のように自分の予想を覆してくれる芸術、つまり、表面的には非常にシンプルに見えても、その背後にさまざまな情感や深い心情を秘めた芸術が大好きです。曲は素朴でありながら喚起的。歌詞は悲しみと喪失感に満ちていて、もともとはホリデーシーズンの気分と結び付くものではないのですが、クリスマスの物語に欠かせない部分を描いています。このキャロルが、誕生から500年ほどたった今でも広く愛されている理由は、その普遍性にあるのかもしれません。私は、ティム・アルホフが私のために作ってくれたこの新しい編曲版をとても気に入っています。それは、現代的なものと古典的なものを見事に融合させているからです。 ダニール・トリフォノフ「Man of the House」 子どもの頃に映画『ホーム・アローン』を見たのを覚えています。ジョン・ウィリアムズの音楽も素晴らしいですよね。そのサウンドトラックアルバムをたまたま聴いた時、特に気になった曲が一つありました。それが「Man of the House」で、私はこれをトランスクリプトすることにしました。2台のピアノ用に編曲したのですが、レコーディングではまず一つのパートを録って、もう一つのパートをそこにオーバーダビングする形で、すべて私が演奏しています。編集段階でそれらのトラックを重ねたので、見かけ上は2台のピアノで演奏しているようになっています。 サンサーラ「ピース・オン・アース」 トム・ヘリング(サンサーラの芸術監督):クリスマスは人々の絆を深め、喜びを分かち合う時ですが、最近は内省のための大切な時間であるとも感じています。世界中でいくつもの大きな紛争が起こっている中で、私たちが等しく持っているヒューマニティをもって連帯すべきであると主張することは、これまで以上に重要になっていると思います。エロリン・ウォーレンが作曲した「ピース・オン・アース」は、より明るい未来への希望を美しく表現した曲です。初めて聴いた時、魅惑的な伴奏パートとシンプルで印象的なボーカルラインにすぐに引き込まれました。一度聴いたら忘れられない曲の一つで、いつも心の中のどこかで再生されているような感じです。 ランドル・グーズビー & カルロス・サイモン「The Christmas Song」 ランドル・グーズビー(ヴァイオリン):ナット・キング・コールが歌った「The Christmas Song」は私のお気に入りのクリスマスキャロルで、彼自身もまた、私たちがクリスマスに望む、穏やかさ、上品さ、温かみのすべてを備えた人物でした。今回は、ナット・キング・コールが持っていた優しさや柔らかさと才能あふれるカルロス・サイモンの洗練された響きを融合させたこの素晴らしいアレンジを、リスナーの皆さんにお届けする絶好の機会だと思いました。 カルロス・サイモン(ピアノとアレンジ):もちろん、ナット・キング・コールのバージョンにおけるうっとりするようなストリングスや豊かなハーモニーがすぐに思い浮かぶのですが、私のアレンジでは、みずみずしいアルペジオ、夢見心地のメロディラインとともに、ドビュッシーやラヴェルのような雰囲気を作り上げようとしました。 楊雪霏「Ave Maria」 良い映画に感情を高めてくれるサウンドトラックが必要なように、私にとって、心が華やぐホリデーシーズンには、内面を豊かにしてくれてリラックスできる音楽は欠かせないものです。シューベルトの「Ave Maria」の旋律は、とても美しくて感動的なものだと思います。だからこそ、この曲は長い間、クリスマスをはじめとする多くの場面で使われてきたのでしょう。私はこの名曲を2本のギターのために編曲して、1本のギターを私の声に見立て、もう1本のギターを伴奏パートにして、両方を自分で演奏しています。リリカルな趣は私のトレードマークの一つであり、この曲は私に“ギターを歌わせる”良い機会を与えてくれます。 ザ・シックスティーン & ハリー・クリストファーズ「Bethlehem Down」 ハリー・クリストファーズ(指揮):私はずっとピーター・ウォーロックの音楽が大好きで、このキャロルは私の心の中で特別な位置を占めています。オックスフォード大学の学生時代にも歌いました。ウォーロックは彼が経済的に困窮していた1927年に、デイリー・テレグラフ紙が行ったキャロルの作曲コンテストにエントリーするために「Bethlehem Down」を作曲して、見事優勝を飾ったのです。素晴らしいことだと思います!ウォーロックによる原曲は、アカペラのための四つの詩節から成っているのですが、私たちは、それぞれの詩節の間にピアノとヴァイオリンによる間奏を、非常に雰囲気のあるスタイルで加えました。ピーター・ウォーロックがこれを聴いたらきっととても喜んでくれたと思います。 オリヴィア・ベッリ「God Rest Ye Merry, Gentlemen」 「God Rest Ye Merry, Gentlemen」は私の母国であるイタリアの伝統曲ではありませんが、その高貴で古風な性格のメロディに魅了されました。私は、この曲における秘められた和声の可能性をとても気に入っています。それによって、長調と短調、スイートとビターの間で演奏することができるからです。私たちはクリスマスの時季には音楽に関するそれぞれの習慣を持っています。朝、家の飾り付けをしたり、料理をしたり、贈り物を包んだりしている間には、生き生きとしたリズミカルな音楽を好んで聴きます。そして、ひとときの休息である昼食の後には冬のムードが漂う穏やかな曲を、夜には伝統的で神聖な音楽を聴くのです。 マリア・ドゥエニャス「El cant dels ocells」 マリア・ドゥエニャス(ヴァイオリン):「El cant dels ocells(鳥の歌)」は、スペインの伝説的チェリスト、パブロ・カザルスの演奏で有名になった、カタルーニャ地方の伝統的な歌曲であり子守歌です。原曲はイエスの誕生を知った生き物たちの喜びを歌ったもので、多くの鳥たちがお祝いに集まってきます。クリスマスというと、私は家族と過ごす時間やじっくりと考える時間を思い浮かべるので、ノスタルジックで親密なフィーリング、つまり故郷に帰るような感覚を持つ曲を選びました。 シェク・カネー=メイソン「I Saw Three Ships」 「I Saw Three Ships」はとても陽気で喜びにあふれた曲です。原曲はすごくシンプルなのですが、素晴らしいアレンジャーでありピアニストであるHarry Bakerが、非常に壮大で、かなりユニークで、そして演奏するのがとにかく楽しいアレンジを施してくれました。実際、このおなじみのメロディをプレイすることはとても楽しかったです。 リュシエンヌ・ルノーダン=ヴァリ「Stille Nacht」 8歳か9歳の時にブラスアンサンブルで「Stille Nacht」を演奏したことや、キャロルを聴きにロンドンのクリスマスコンサートに行ったことを覚えています。ですので、この曲はずっと私の人生の一部であり、この美しいアレンジを素晴らしいオーケストラと共に演奏するのは、夢のようなことなのです。まるでクリスマス映画の中に入り込んだかのような気持ちになれる、とても魅惑的なトラックに仕上がりました。 ジョン・メトカーフ「Carol of the Bells」 「Carol of the Bells」は、ウクライナの作曲家ミコラ・ドミトロヴィチ・レオントヴィチが、幸運と繁栄を祈るウクライナ民謡を基に書いたものです。ウクライナの人々が多くの苦難に見舞われているにもかかわらず、驚異的な回復力、勇気、そして人間の精神の強さを私たちに見せてくれている今こそ、このメロディを奏でることが重要だと思いました。このバージョンはキャロルを器楽曲にリワークしたもので、歌曲である原曲と密接なつながりを持っているのですが、インストゥルメンタルのアレンジでは一味違う自由なアプローチが可能になります。つまり、ブレスのことを心配せずにテンポを落としたり、はたまた歌詞が分かりにくくなることを気にせずにスピードを上げたりすることができるのです。大切なのはテクスチャーと雰囲気、そして何よりも情感です。 オラ・イェイロ「Away in a Manger」 「Away in a Manger」は、子どもの頃からずっと好きなクリスマスキャロルの一つです。この曲は、我が家が最初のCDプレーヤーを購入した後、父が初めて持ち帰ったCDに入っていて、私はそのケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団による素晴らしい音源を聴いて育ちました。今回のピアノ版は、私が数年前に書いた合唱用のアレンジをベースにしたものです。少しメランコリックなアプローチになっていて、ピアノの低音域の濃密でやや陰鬱(いんうつ)な和声と、美しい光のような原曲のメロディとのコントラストが気に入っています。 ココ・トミタ「White Christmas」 アーヴィング・バーリンによる「White Christmas」の私が選んだバージョンは、伝説的ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツが自ら手掛けた素晴らしいアレンジです。この曲には、アーヴィング・バーリンの人生を反映したかのようなメランコリックな雰囲気があります。子どもの頃の彼は裕福とは言えず、家族も苦労をしていて、アーヴィングはお金を稼ぐために路上で歌っていたのだそうです。それが、偉大なソングライターとしての彼のキャリアの始まりだったのかもしれません。私はこのメランコリックな感じを表現する音色を見つけ出そうとしました。そしてもちろんハイフェッツは、私にとってこのバージョンを特別なものにしている、ジャジーなテイストやひねりを加えてくれています。 ケンブリッジ・クレア・カレッジ聖歌隊「In the Bleak Midwinter」 グラハム・ロス(音楽監督):クリスティーナ・ロセッティによる1872年の詩「In the Bleak Midwinter」ほど、クリスマスの静かな心を感動的に表現したものはないでしょう。彼女の言葉は、他の多くのクリスマスソングに見られる明るい光や祝祭的なきらめきとは距離を置き、寒い冬の風景の中での降誕の場面に寄せる思いを深めてくれるものです。私は地元の教会の合唱団がキャロルを歌うイベントで、高音部担当の合唱団員として、この詩にグスターヴ・ホルストが美しい曲を付けたキャロルを歌ったことを覚えています。私のアレンジは、ホルストのハーモニーを、壮大かつ繊細で、広がりのあるピアノのパートで再構成したものです。このアレンジは、2019年の12月、ロンドンに帰る飛行機の中で、雲の上という、もう一つの美しい白い風景を眺めながら書きました。飛行機の窓から外を眺めると、人生の美しさとはかなさの両方を感じることができますが、このロセッティの詩によるキャロルのアレンジにも、そのような感覚が作用しているように思います。 クリスチャン=ピエール・ラ・マルカ「O Christmas Tree」 「O Christmas Tree」は私にとってクリスマスそのものです。子どもの頃に入っていた合唱団で歌ったたくさんのクリスマスソングの中に、この曲もありました。私たちがフランス語で歌っていたように、きっとどこの国にも、そこで使われている言語のためのバージョンがありますよね。だからこのキャロルはとても普遍的なものになったのだと思います。そして、チェリストとしてもアーティストとしても、自分を世界市民のように感じている私は、この曲を奏でていると、多くの人々に心の深いところから語りかけているような気持ちになります。 ピーター・グレッグソン「The First Noel」 「The First Noel」は、この世で最も美しいメロディの一つです。そしてそこに、誰もがよく知っていて、そして愛している、あのおなじみのハーモニーの力が加わることによって、温かいクリスマスの雰囲気や、ミンスパイとモルドワインの組み合わせのような質感が生まれるのです。このバージョンでは、合唱団のテネブレと弦楽七重奏と共同作業をしました。彼らと倍音の響きがあるテクスチャーを生み出して、それをまるでクリスマスツリーに付けるきらきらした飾りのように、ボーカルアンサンブルの間に織り込んでいます。 ダニエル・ホープ「Have Yourself a Merry Little Christmas」 私は子どもの頃からずっと「Have Yourself a Merry Little Christmas」が大好きです。地球上のどこにいても、この曲を聴けばすぐに温かみにあふれたクリスマスの世界へとトリップすることができます。今回は、現代最高のアレンジャーの一人である、ポール・ベートマンが新たに書き下ろしたインストゥルメンタルバージョンを演奏しています。ぜひ、ゴージャスな弦楽器の響きと、ポールがそれぞれの異なる弦楽器にどのようにメロディと心地よいトーンを配分しているかという点に注目してください。私はただ、その上にうまく浮遊していられるようにベストを尽くすだけです! アレクシス・フレンチ「Still, Still, Still」 これこそ最も美しいメロディです。私にとってこの曲は、魔法がかけられたかのように魅惑的な季節の、特別な思い出を呼び起こすものでもあります。「Still, Still, Still」の旋律は1865年にオーストリアの民謡集に初めて登場しています。歌詞は、子守歌を聴いて赤ん坊が眠るときのような、幼子イエスと聖母マリアの安らぎを表現したものです。私がこのキャロルを選んだ理由は、この曲から聖なる静寂が広がっていくことと、私の心をつかむ完璧なシンメトリーを持っているからです。ピアノで演奏するととても美しく、メロディに深いハーモニーや響きを与えることで、本当に魅惑的なものになるのです。ですので、キャロルの本質を損なわないようにしながら、ふくよかさを加えてみました。 アタッカ四重奏団「I’ll Be Home for Christmas」 ネイサン・シュラム(ヴィオラ):「I'll Be Home for Christmas」は、私たちの心に語りかけてくれる曲です。パンデミックでさまざまなことが起こり、家族にも会えなくなってしまった経験から、クリスマスにやっと家に帰れるという内容がより心に深く響くのです。 Amy Schroeder(ヴァイオリン):子どもの頃によく祖父母と歌ったので、この曲を聴くといつも彼らのことを思い出します。そしてこの曲のハーモニーは、このようなスタイルが作られた時代へと私たちを引き戻してくれます。 Andrew Yee(チェロ):誰かが歌う場合と違って、弦楽四重奏で演奏するには、楽曲の骨格自体がしっかりと人を引き付けるものでないといけないのですが、これはまさにそんな素晴らしい曲なのです。そして、とても素敵なハーモニーは、私たちが生み出すべきサウンドのイメージを広げてくれました。