

「夢追い酒」(1978年)のヒットでおなじみの渥美二郎。彼の第一歩は、酒場を舞台とするこの曲の歌い手にふさわしく、地元である東京、北千住での、流しの歌手としての日々だった。そこで鍛えた歌声で遠藤実に師事し、1975年に歌手としてデビューを飾るも、当初は売り上げで報われることがなく、苦労の連続だった。その活動は「夢追い酒」のヒットのおかげで1979年ごろからようやく軌道に乗るが、1989年には大病を患い、命の危機を経験してしまう。それから復帰した彼は、歌うことへの感動を胸に歌手活動を再開。2011年からは、弾き語りで歌う流しのスタイルを“演歌師”と称し、原点を見つめ直すようにこの名を掲げたアルバムのシリーズを発表するようになった。生きる中での切なさや悲しみを歌った曲が多い歌手だが、その歌が味わい深いのは、こうした人生の山あり谷ありを乗り越えてきたからだろう。