

1917年に日本統治下の朝鮮(現在の韓国慶尚南道)で生まれた尹 伊桑(ユン・イサン)は、朝鮮をはじめとするアジアの伝統音楽のエッセンスをヨーロッパの前衛的技法の中で生かし、独自性が高い音楽を創造した。1930年代後半の日本留学を経て、40代を目前にした頃からパリやベルリンでさらなる研さんを積んでいく。尹の作品は1950年代終盤から注目を集めるようになり、その後はヨーロッパ各地で演奏された。1967年にはスパイ容疑によってベルリンから韓国に強制送還されたが、イーゴリ・ストラヴィンスキーやカールハインツ・シュトックハウゼンをはじめとする世界的芸術家たちが署名した嘆願書などによって釈放された。この事実は、彼が当時のヨーロッパにおいて作曲家としていかに高く評価されていたかを物語っている。その後はベルリン芸術大学の教授を務めるなどしながら、多くの楽曲を遺した。