1955年生まれのシンガーソングライター、松山千春。北海道出身の歌手の中でも、松山はその地のイメージがとりわけ強く重なる存在だ。その理由は、北の雄大な光景が目に浮かぶ代表曲「大空と大地の中で」によるところだけでなく、1977年にデビューしたころから彼自身が足寄（あしょろ）で生まれ育ったことを折に触れて語っていて、著書でもその思いを記している。1970年代後半、フォーク／ニューミュージックが全盛だった時代においても、松山は屈指の才能で早くに全国的な人気を獲得するに至った。そんな松山の楽曲は、例えば「銀の雨」（1977年）や「恋」（1980年）のように繊細な心情を歌う一方で、人生や生きること、さらには愛情といった深いテーマを持つ歌もある。歌唱力も高く、優しく、大らかさも備えたその歌声には、それらの楽曲を歌い上げるパワーとしなやかさがある。そしてその歌の数々には、彼という人間の歩みそのものも刻まれている。また、人間味あふれるパーソナリティも知られており、それがストレートに表れるトークの人気も高い。人情に厚く、自分の信念を曲げようとしない松山の生き方にも通ずる、その豊かな感情が楽曲の中に息づいている。北の大地に重なるスケールの大きな人間性や表現力をもって、松山は唯一無二の音楽を生み出している。