ヴァレンティン・シルヴェストロフはウクライナ出身の作曲家の中でとりわけ有名であり、アルフレート・シュニトケやアルヴォ・ペルトをはじめとする旧ソビエト連邦における同世代の作曲家たちの中でも屈指の存在である。1937年にキーウで生まれた彼は、1958年からキーウ音楽院で作曲を学んだ。1960年代には前衛音楽で大きな注目を集めるが、1970年代の半ばになるとその暴力的ともいえる初期の作風は影を潜める。より穏やかなアプローチを取るようになったシルヴェストロフはその後、メロディを大切にした調性音楽へと回帰していった。転向から間もない頃に書かれた、プーシキンらの詩に曲を施した歌曲集『Silent Songs』や、ピアノのための小品集『Kitsch-Music』のうっとりするような美しさはまさにロマン派のそれである。そしてこの時期からシルヴェストロフの音楽は国際的な広がりを見せるようになり、その人気は現在も高まり続けている。深い叙情性をたたえた交響曲やピアノとオーケストラのための作品なども高い評価を受けており、1990年代以降に多く手掛けている宗教合唱曲は、別世界の響きで聴き手を優しく包み込む。また2000年代に入ってから書きつづっている一連の「Bagatellen」はより親しみやすいムードをまとったもので、ファンのさらなる拡大に一役買っている。シルヴェストロフは2022年、母国がロシアの侵攻を受けると国外に脱出し、ベルリンに居を構えた。