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19歳の風来坊から一夜にしてSoundCloudのスターになったホールジーは、有名になった当初から謎めいた存在だった。2010年随一の“流れるような歌声”と評されたその声以外に知られていたことはほとんどなかった。「私には大きな物語というか、『彼女の顔が分からない。毎回見た目が変わるから、街中ですれ違っても気付けなかった』みたいなところがあると思う」と、シンガーの彼女はApple MusicのZane Loweに語る。「アーティストの中には表現方法を絞って、すごく限定的なスタイルを持つ人もいる。『これが自分にはうまくハマるし、自分らしくて、落ち着ける』っていう。でも私の場合、新しく作り直していかないと面白味が分からない。多くの人がそれを理解して、私に決まりきった自我がないことを分かってくれていると思う」 ある意味、5作目のスタジオアルバムからのリードシングルは、今の彼女がこれまで以上につかみどころがないことを示している。第一に、彼女は「The End」という名の曲から始めたのだ。それはAlex GとMichael Uzowuruとの共作によるアコースティックのフォークバラードで、彼女が表沙汰にしてこなかった健康上の問題を明かした曲だ。また、アルバム『The Great Impersonator』では、オマージュという概念を通して曲作りをするという新たな方法で自らをさらけ出す。アルバムのリリースに先立って公開された一連の写真で、彼女がデヴィッド・ボウイやアリーヤ、ケイト・ブッシュなどに扮していたのはそのためだ。「年を重ねるにつれて、自分をテーマにした曲を作るのが楽しくなったけど、自分自身について話すのはつまらない」と、彼女は言う。「だからこうして自分を作り変えることが、ささやかな逃避の手段になる。それは、逃げ出すって意味じゃなくて、違った方法で物語を伝るってこと」 アルバムの全18曲にはアイデンティティ、死生観、レガシーと言ったテーマが貫かれ、1970年代フォーク、1980年代パワーバラード、1990年代オルタナティブロック、2000年代ポップを経て、ホールジー自身が現れた2010年代に着地している。時には一時的に表に出た自分の本性に動揺し、またある時は自己を失くしたいと願う場面もある。例えばPJハーヴェイにインスパイアされた「Ego」で彼女はこう叫ぶ。「自分のエゴを殺してみるべきだと思う/だってそうしないと、自分のエゴに殺されるかもしれない(I think that I should try to kill my ego/’Cause if I don’t, my ego might kill me)」。「Hometown」はドリー・パートンへの賛歌だが、色あせたアメリカンドリームの描写は「Glory Days」でのスプリングスティーンを彷彿させる。そして「Lucky」で繰り返し引用されるブリトニー・スピアーズの同名のヒット曲は、有名になるほど悲しくなるスターの心情を歌ったポップバラードの名曲だ。 「『BADLANDS』が出た時に20歳になって、このアルバムがリリースされる頃には30歳になる」と、ホールジーは自身のキャリアの軌跡をたどる。「10年の計画はあったけど、その先のことは考えてなかった。何が起きるんだろうって考えたりしなかった」。次の10年後の未来は見えていないかもしれないが、今の彼女の焦点はゴールに向かって突き進むよりもそこまでのプロセスを存分に楽しむことにある。「昔はよく、SZAやフランク(・オーシャン)のアルバムの作り方を見て、『ああ、私はアルバム一つ作るのに2、3年かけるなんて絶対無理。私はすごく衝動的でせっかちで、片付けてしまわないと気が済まない』って思ってた」と彼女は言う。「でもこのアルバムで曲作りに長い時間をかけてみて、初めて理解できた。ああ、作ってる時が一番面白いんだって」