ザ・ホワイト・ストライプスとは、楽器構成やカラースキーム、検証可能なプロフィールなど、自らに課した制限の可能性を追求する形式の練習に他ならなかった。2011年にそのユニットを解散して以来、ジャック・ホワイトは、バンドにおける一メンバーに徹した雰囲気でプレイしたThe Raconteursから、ソロ名義で実験的なサウンドを打ち出した2022年の『Fear Of The Dawn』と、その対になるアコースティックが主体となった次作『Entering Heaven Alive』まで、形式とカラースキームの探究を続けてきた。しかし、よりシンプルで、ノイジーで、単一的なスタイルを求めるファンをよそに、もしくはそんなファンを困らせるためなのか、今回ホワイトは戯れに軌道修正してみせた。 6作目のソロアルバムとなる『No Name』のリリース方法は、いたずら好きな彼らしいものだった。最初にアーティスト名も、アートワークもないアナログ盤がThird Man Recordsの直営店で配布され、その後、曲名が分からないままネットにアップされたのだ。それが新鮮な興奮を呼び起こしたのは、サウンド自体が新鮮に感じられるものではなかったことが大きな理由だ。メグ・ホワイトの参加はまだないものの、ここに収録された13曲は、彼を一躍有名にしたバンド、ザ・ホワイト・ストライプスの、削ぎ落された、過激なまでの凶暴性を、解散後に彼が発表したどの作品よりも効率良く、しかも一貫して受け継いでいる。隅々にまで自信がみなぎっているが、何より目立つのはフックの強さで、大きく野太いノイジーなギターが最高にキャッチーなコンビネーションでプレイされている。 例えば「That’s How I’m Feeling」は、すぐに「Seven Nation Army」のヘビーローテーションを止めさせるほどではないかもしれないが、ジャンプスケア系の高揚感あるコーラスは一度聴けば忘れられず、まさしくアンセムにうってつけの曲だ。「Bless Yourself」「Tonight (Was A Long Time Ago)」「Number One With A Bullet」も同じくキャッチーである一方で、「Bombing Out」のスピード感と重厚さは、ホワイトがこれまで数々の名義でリリースしてきた曲の中でも最大級だといえるかもしれない。そのすべてから伝わるさりげなさは、自信のアピールだ。ホワイトの几帳面で厳密な性格がいかんなく発揮された本作『No Name』の控えめな登場は、彼が耳にこびりついて離れないザ・ホワイト・ストライプスの曲を大量生産し続けてきたとしてもまったくおかしくなかったことを思い出させる。彼がそれをやりたがらなかったのは賢明であり、今になってその気になったのは我々にとって喜ばしいことだ。
ミュージックビデオ
- 2012年
- The Raconteurs
- Queens of the Stone Age
- Olivia Jean
- パール・ジャム