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統計データの数字を見る限り、ミーガン・ジー・スタリオンは世界の頂点に立ったと思って当然だ。サードアルバム『MEGAN』からのセカンドシングル「HISS」は、彼女のソロアーティスト名義としては初のチャート1位を達成した曲になったのだから。しかし、2019年に「Hot Girl Summer」でブレイクした後、この雄弁なヒューストン出身のラッパーは、SNSでカルト的人気を誇るフリースタイラーから立派な文化勢力へと上り詰め、その間、公の場で猛烈に詮索された悲嘆と裏切り行為によって、打ちひしがれていった。そして2022年のアルバム『Traumazine』で、ガードを下げて自身の苦痛を明かし始めたミーガンは、続く作品の告知として、2023年末にステートメントを発表する。それは「ヘビが脱皮するように、私たちは過去を何度も何度も脱ぎ捨てなければならない」というものだった。そして発表された本作『MEGAN』では、今なお苦難を経験しているが、戦わずして屈する気はないとする彼女の姿が見てとれる。 とぐろを巻いて襲い掛かろうと待ち構えるヘビをモチーフに、クールで冷静沈着な威嚇を保ちながら『MEGAN』の18曲は駆け抜ける。彼女は「HISS」で、人気プロデューサーのLilJuMadeDaBeatが手掛けた不穏なビートに乗せ、「不利な状況でも懸命にやってる(Still goin’ hard with the odds against me)」とラップする。また、「Rattle」での彼女は名前を伏せた同業者に向けて、「あんたの人生は最高に退屈なんだろうね、今もあたしたちがやったことを思い返してるなら(Your life must be borin’ as fuck if you still reminiscing ’bout shit that we did)」と突きつけ、痛烈に批判する。彼女が「Figueroa」の中で「マザーファッキン・ブラットだ、バービーじゃない(a motherfuckin’ brat, not a Barbie)」と自称していることから、誰をターゲットにしているか分かるかもしれないが。アルバムには軽いノリの曲もある。「Otaku Hot Girl」は彼女の深いアニメの知識を生かした曲であり、「Mamushi」では日本のラッパーの千葉雄喜を迎え、彼女自身も日本語でのラップを披露。そして「Accent」では彼女の『Hot Girl Summer Tour』に帯同したGloRillaをフィーチャーし、「ポパイのビスケットより分厚い(thicker than a Popeye’s biscuit)」体型のカントリーガールの曲を歌う。 しかし、このアルバムからは、ミーガンにとってトップの座にいることは、ひどく孤独なことに違いないと気付かされる。例えば「Moody Girl」で、彼女はトレードマークのキャッチフレーズ「ホット・ガール」を「真のマザーファッキン・サッド・ガール(real motherfuckin’ sad girl shit)」に変えている。さらに「COBRA」では、メタルコアのギターが鳴り響く中、彼女は世界中が見守る中で壊れるのはどんな気分かを教えてくれるのだ。