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「お気に入りの一曲を探しながら、同時に音楽の間口を広げる。そんな体験をしてもらえたらうれしい」。Penthouseの浪岡真太郎(Vo/G)はセカンドアルバム『Laundry』についてApple Musicに語る。ファーストアルバム『Balcony』から約1年半ぶりとなる本作は、Penthouseというバンドが持つ音楽的探究心が存分に発揮された10曲を収録。新鮮なアイデアに満ちた楽曲が音楽の果てしない可能性を描き、心をときめかせる。この楽しさの根源を、浪岡はしっかりと捉えている。「『Balcony』を出した頃は、コロナ禍を抜けた世の中が、それでもまだ元の世界をいまいち思い出しきれていない、寝起きのような雰囲気があったような気がする。そこから1年半、Penthouseはいくつものライブで直接リスナーと向き合ってコミュニケーションを重ねてきた」と彼は言う。つまりリスナーとつながることによって、Penthouseは水を得た魚のように探究心を広げていけるということだ。 ジャケット写真には、洗濯機の中で巻き起こる波の中、一艇のヨットが進む様子が描かれている。「元々それぞれが違ったルーツを持つメンバーの色とりどりの個性が、さまざまな体験を通じて、洗濯機の中で文字通りもまれるように洗練されて完成したのがこのアルバム。今回もJ-Popはもちろん、ファンクやゴスペル、カントリーロックなど、ジャンルの垣根を感じさせない一作になっていると思う」。ヨットに乗り込んだメンバー6人は気まぐれな風を読みながら、ワクワクした顔で音楽地図を広げ、新しい世界へと向かう。ここからは浪岡真太郎に全曲の解説をしてもらおう。 Taxi to the Moon 僕は洋楽育ちにもかかわらず、英語で歌って映えるメロディに日本語を載せるとどうしようもなくダサくなるというジレンマを常に抱えながら生きてきた。長い研鑽の日々を経て、この曲では、洋楽のメロディの良さをそのまま残して日本語で歌う、という積年の夢をなんとか形にすることができたと思う。特にサビでは、「託していく身 to the ギャラクシー」が「Taxi’ll take me to the galaxy」となるように、全編が英語詞に変換できるという仕掛けもある。 我愛你 リリースカットピアノ、という打ち込みならではの音色がある。ピアノの残響をゼロに近づけた、ザクザクした感じのやつ。それをあえて生ピアノ人力演奏で再現しようとしたのが「我愛你」だ。もちろん、発想段階ではそんなこと実現可能なのか分からなかったのだが、Pf.かてぃんの技巧により実現出来てしまった(打鍵音の鋭さと歯切れの良さは彼の元々の個性でもあった)。 夏に願いを 僕自身、まあまあ捻くれた人間だという自覚がある。でも、実はコーヒーが飲めなかったり、少年ジャンプが好きだったり、夏が好きだったり、意外と真っすぐな一面もある。その真っすぐな一面だけを綺麗に切り取って、ど真ん中ストレートから逃げずに作り上げた1曲。Penthouseの入口として幅広くいろんな人に聞いてもらいたい。 Raise Your Hands Up Pf.かてぃんとのコライト。サビのメロディだけ作って彼の家に行き、伴奏の骨組みやリフ、展開を構築していった。大まかなデモができてからも、「ここはギターリフを追加したい」、「後半もっと壮大な展開をつけたい」など、世界各地を飛び回るかてぃんとリモートでやり取りを続けて完成した。ぜひライブに来て聴いてほしい一曲。 フライデーズハイ 日本語と英語、歌とラップをシームレスに、自由に行き来することをテーマにした曲。日本語と英語で韻を踏み合うことで言語が混ざり合い、独特のフローが生まれた。隙間の多いリズムの間で、まるで走馬灯のように代わる代わる登場するピアノ、ギター、ホーン、ストリングスのアレンジが気に入っている。 花束のような人生を君に 親から子を見つめる暖かな視線をテーマに作詞した曲。僕含めメンバーは現時点で誰も子を持ってない中での作詞は大きなチャレンジだった。自分が子供だった頃の親の気持ちを想像するというのは照れくさいものだったが、改めて考えると、仲間と一緒に存分に音楽を楽しめている僕の人生は、割と花束のようかもしれない、などと思った。 一難 いわゆる丸サ進行の曲はPenthouseでも何度か制作してきたが、おしゃれなビートと合わせることが多かったためか、ライブでやるたびに「イマイチ盛り上がり切らんな」という体感があった。一方で丸サ進行の曲が好きだと言ってくれるファンも多く、どうせなら盛り上がるやつも作りたいなと思って作ったのがこちら。ピアノのラテンらしいフレーズとパーカッションによるお祭り感を楽しんでほしい。 Kitchen feat. 9m88 台湾のシンガーソングライター9m88をフィーチャーした。ゆったりとしたスウィングは僕が最も得意とするビートだということもあり、のびのび自由にアイデアを紡ぎながら制作した。時折挟まる9m88の芯がありながら、それでいて柔らかな歌唱がアクセントになって、3人ボーカルならではの多幸感のある展開へとつながっていく。 アイデンティファイ 基本歌詞に思想や実体験を盛り込まないスタイルで作詞しているのだが、この「アイデンティファイ」は珍しく、僕の考えが色濃く打ち出されている。生まれつき持っている個性らしきものなどに大した革新性はない。果てしない深淵に近づこうともがく中でいつの間にか獲得していくものたちにこそ本当の個性が宿ると僕は信じている。 Whiskey And Coke 今年、初めてエレキギターを購入した。これまでは父親や友人のものを借りてやり過ごしていたのだが、毎日触るものだし、自分で好きな音がするものを選んで買おうと思い立ち、Fender Custom Shop 70周年記念の54年仕様のストラトを手に入れた。その音に導かれるように、何も考えずに、好きなことをやりたいようにやった1曲。