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ピアニスト/作曲家のロバート・グラスパーがニューヨークのジャズクラブ、ブルーノートでレジデンシー公演『Robtober』の音源を蓄え始めた時、その目的はもっぱら友人やコラボレーターと共演するたびにステージ上で生まれる魔法を記録することだった。 もしグラスパーにもっと先見の明があって、本作『Keys to the City Volume One』のようなプロジェクトのために、これらのパフォーマンスのセレクションをキュレーションしようと思いついていたら、眠っていた素材の宝庫にもっと早く気付けたかもしれない。「5年分くらいある」と彼はApple Musicに語る。「考えてみれば、1か月間、毎晩2公演だ。始めた頃は休みが1日しかなかったから、最初の数年は週に6日演奏していた。そして、とても多くの人が来てくれた。観客に事前に知らせていた出演者だけでなく、飛び入りで参加してくれた人たちもたくさんいたよ。そういう瞬間がいっぱいあった」 音源の中から最終的にグラスパーは本作のために九つのパフォーマンスを厳選した。ザ・ルーツがBLACK THOUGHTをフィーチャーした「Step Into the Realm」や、ノラ・ジョーンズが歌うアウトキャストの「Prototype」、Thundercatをフィーチャーしたチック・コリア「Paint the World」のカバー、グラスパーがキャリア初期に手掛けたMulgrew Millerへのトリビュート曲「One for ‘Grew」を特別にアレンジしたもの、そして、グラスパーとApple Musicによる2024年の三つのコラボレーションすべてにその歌声がフィーチャーされているミシェル・ンデゲオチェロが歌った、グルーヴィなレディ・フォー・ザ・ワールドの「Love You Down」などだ。「彼女はアイコンだ」とグラスパーは言う。「そして、私に言わせれば、史上最高のアーティストの一人でもある。彼女は十分に評価されていないように思う」 また、『Keys to the City』に収録された唯一のオリジナル楽曲「Didn’t Find Nothing in My Blues Song Blues」には、エスペランサ・スポルディングの即興の歌がフィーチャーされていて、ステージ上での陽気な掛け合いや蛇行したストーリー展開など、グラスパーいわく『Robtober』の雰囲気を象徴するような一曲に仕上がっている。「(この曲は)私たちのもう一つの側面を示している。純粋で混じりけのない、ただ楽器を手にした二人の個性的なジャズ好きだ」と彼は語る。「すごくクールで、すごく自然に感じたんだ。彼女が『ねえ、ブルースやらない?』と言って、私が『いいね』と返し、二人でただ演奏を始めた。まったくリハーサルはしなかった。彼女は自分が何を歌うかも決めていなかった。だから私は彼女が言ったように、『Couldn’t Find Nothing in My Blues』と名付けた。なぜなら、これは文字通りあの瞬間に作られた曲だったから。そういうのがいいんだ。計画していなかったものを発表するのは勇気がいるからね」