始めは『Wolf』のように扇動的なアルバムで、後には自らが手掛けるブランド、GOLF WANGの大胆なファッションセンスによって名声と悪名を轟(とどろ)かせるアーティスト、タイラー・ザ・クリエイター(本名 Tyler Okonma)。しかし彼についての多くは他の音楽業界のスターたちに比べればベールに包まれている。彼ほどの力量と悪名を誇る多くのセレブリティの場合、自分の公の生活を極端なまでにキュレートするか、そうでなければタブロイド紙に搾取されて定義されてしまうものなのに、元Odd Futureのリーダーである彼は、主にそのアートと時折引用可能なインタビューを通して、彼が大切にしていることをシェアする。高評価を博した『IGOR』と『CALL ME IF YOU GET LOST: The Estate Sale』のように、タイラー・ザ・クリエイターのアルバムの数々が、ペルソナを築くことから離れて私的な物語を語ることへと向かうにつれ、彼の神秘性は壮大さを増し、より大きな憶測を呼ぶという好ましくない副作用をもたらした。 前作より3年以上の時を経て放つこの7作目のスタジオアルバム『CHROMAKOPIA』には、ファンの執着心による影響が大きく作用している。奇妙であることに反応したオープニングトラックの「St. Chroma」で、タイラーは文字通り彼の子ども時代の詳細をささやき、リードシングルの「Noid」では、より直接的に、オンラインでもオフラインでも一線を超える外の人たちに対して怒りをぶつける。以前の楽曲と同様に、キャラクターワークも「I Killed You」と2人芝居形式の「Hey Jane」で活用されている。一方で、「Like Him」と「Tomorrow」といった親密さを備えた曲では、現実とフィクションの壁が過去最高に薄くなっている。 アルバムがあまり深刻になりすぎないように、タイラーは「Judge Judy」「Rah Tah Tah」で挑発的に性的嗜好(しこう)の話に取り組んでいる。この2曲は、アルバム『Goblin』時代から彼を追っている人たちを満足させるだろう。そして独白というスタイルが似合わない曲には、偉大なラッパーたちを招き入れる。「Sticky」にはGloRilla、リル・ウェイン、Sexyy Redがパワーを注入、さらにヤング・バックの曲へ鮮やかに転調するビッグチューンに仕上がった。 また「Balloon」では、タイラーと気が合いそうなDoechiiがその荒々しいラップでタイラーのエネルギーを増大させ、大役を務めている。 “色彩の多様性”という意味に集約できるアルバムタイトル「CHROMAKOPIA」は、タイラーの芸術的才能をさまざまな形で披露する。普段はプロデューサーの役割を他人に譲ることには気が乗らない彼だが、長年スタジオで一緒に仕事をしているVic Wainsteinを迎え入れ、ジャズフュージョンからザムロックに至るまでの幅広いサウンドを網羅した音楽ビジョンを達成した。その影響はスタイリッシュで控えめだが、内省的な曲「Darling, I」ではザ・ネプチューンズへのオマージュが感じられ、「Take Your Mask Off」ではレトロなR&Bヴァイブスが彼のライムを包み込んでいる。
その他のバージョン
ミュージックビデオ
- 2017年
- Steve Lacy
- フランク・オーシャン
- ¥$, カニエ・ウェスト & Ty Dolla $ign
- Daniel Caesar