

細部にまで神経の行き届いた緻密かつ知的な演奏であると同時に、リスナーの心を揺さぶる豊かな情感にあふれている。世界的指揮者ファビオ・ルイージは、2026年に創立100年を迎えたNHK交響楽団の首席指揮者を2022年の9月から務めている。両者の一連の共同作業においてマーラーは重要な位置を占めていて、2023年には『交響曲第8番 “千人の交響曲”』を、2025年には『交響曲第3番』と『第4番』を演奏し、いずれも高い評価を得てきた。本作に収録された『交響曲第5番』は、2026年の4月16日と17日にサントリーホールで行われた定期演奏会でのパフォーマンスをライブ録音したもの。第1楽章は葬送行進曲なのだが、この演奏では重々しさの中にも弦の穏やかで美しい響きが印象に残る。第2楽章においてはオーケストラの異なるセッション間のコントラスト、そして静と動の対比が見事だ。「スケルツォ」の第3楽章の演奏も、楽器間のカラフルな対話とともに、リスナーをドラマチックに展開する舞曲の世界へと引き込んでいく。ルキノ・ヴィスコンティ監督の1971年の映画『ベニスに死す』で使用され、クラシック音楽の枠を超えた人気曲となった第4楽章「アダージェット」においては、繊細な弦の響きがこの曲の耽美的な魅力を余すことなく表現している。終楽章では対照的にリズミカルでにぎやかなパフォーマンスが繰り広げられるが、その中にあっても演奏の精緻さが聴き手の満足感を高めてくれる。録音のクオリティも見事なものだ。