

世界的大ヒット曲を生み出した後にリリースするデビューアルバムとは、一体どんなものだろう。2024年に大ヒットシングル「Stargazing」と「Nice to Meet You」でブレイクしたMyles Smithにとって、それは高揚感あふれる楽曲の裏にいる人物の素顔を知ってもらうチャンスだった。「世界に向けて自己紹介したかった」と、イギリスのルートンで生まれたフォークポップのシンガーソングライターはApple Musicに語る。「僕の音楽を知ってくれている人は大勢いるけど、僕自身に関しては必ずしもそうじゃない。デビューアルバムには重みを持たせたかった。単に「Stargazing」を15曲とか、「Nice to Meet You」を15曲作るようなことはしたくなかった」 そうして作られた『My Mess, My Heart, My Life.』で、Smithは大半の曲の共同プロデュースも手掛け、メンタルヘルスの葛藤を描いた「Sertraline」や、時に深く、時に困難な愛を歌った「Hate You」、そしてつらいことの多かった自身の生い立ちを掘り下げていく楽曲など多様なテーマに踏み込んでいる。アルバムはこんな一節で幕を開ける。「姉が泣きながら ドアを叩きつける/皿が飛び交う そんな壊れた家庭に生まれた/ほんの一言が争いの火種になるような家だった(Sisters crying, slamming doors/Plates are flying, I was born into a fractured family/Where a word could start a war)」。本作は、感情、弱さ、誠実さ、そしてSmithの“自己発見の旅”をインスピレーションにしたアルバムだ。しかし、困難な瞬間を描きながらも、そこには常に希望と喜びの余地が残されている。誰もが口ずさめるコーラスは楽観的な気持ちを呼び起こし、すべてを一緒に乗り越えようと誘いかける。 「僕にとって大切なのは、"つながり"と"人"なんだ」と、Smithは言う。「このアルバムを聴き終えた人が、さまざまな感情を体験してくれたなら、僕は自分の仕事を果たしたことになる」。ここからは彼自身による全曲解説を紹介する。 My Mess これは僕にとってまるで暴露療法のようなものだった。アルバムの残りの曲を聴く前に、まずリスナーに無防備な状態になってもらいたかった。最初から心を開いて弱さを見せることで、このアルバムのトーンをすぐに分かってもらえるようにしたかったんだ。これは僕にとってすごく重要な曲。重めのテーマの曲には、いつも希望を込めてバランスを取ろうと心掛けているけど、歌詞に無理やり希望を押し込められないときもあるから、そんなときはサウンドの世界で希望を生み出す必要がある。 Hold Me In The Dark 実は子どもの頃に持っていたヘッドフォンについて書いた曲。僕はかなり騒がしい家庭で育ったから、よく自分の部屋に閉じこもって音楽を聴いて、世界を遮断していた。これは僕の人生のもう一つの章、もう一つの側面だけど、それを詩的な表現で美しく描けたと思う。 Hate You 不安な気持ちをテーマにしているけど、不安を強調し過ぎて、それ自体がわざとらしく滑稽なものになってしまうのは避けたかった。だからプロダクションをやり過ぎないように心掛けた。この曲にはいくつものバージョンがあって、もっと壮大なものもあれば、もっと控えめなものもあった。当時僕が聴いていたのは、子どもの頃から親しんできた、男の弱さを見せてくれるような曲だった。例えばラビリンスの「Jealous」や、Tom Odellの「Another Love」、BEN HOWARDの「Only Love」とか。そういう男の弱さが恋愛関係にどう表れるのかを、自分なりの解釈で表現してみたかった。 Grandma’s Place これは本当にごく自然に生まれた曲。(ナッシュビルのソングライター/プロデューサーの)Gabe Simonに初めて会った時にこの曲を書いた。「普段あまり話さないことで、話したいことはある?」って聞いてくれて、結果的に僕の祖母や父方の家族との状況と、これまでの苦労について数時間話し込んだんだ。すると彼が、「スタジオに入って、ただそれを言ってみて。詩的に飾らずに、今僕に話してくれたことをそのまま言ってみるといい」と言ってくれた。僕はついクールなラインを書き続けようとしてしまうんだけど、彼は「クールにしなくていい」って。文字通り、頭に浮かんだことをそのまま口に出した感じで、その間にあまり深く考えなかったから、こういう日記みたいな雰囲気が出たんだと思う。 Mary’s Song 『アドレセンス』や『ルイ・セロー: "マノスフィア"の深層にあるもの』といったドラマやドキュメンタリー作品を観ていた。すごくショックを受けたし、僕の人生で大切な2人のことを思い出させられた。ひどい経験をしてきたのに、それでもすごくたくましくて、笑顔で、勇敢であり続けた人たちだ。これまで多くの女性が語ってきた一方で、男性はあまり話したがらなくて、特にブラックコミュニティの男性が語ってこなかった問題を、ここで敢えて取り上げたいと思ったんだ。 Sertraline この曲で何を歌っているのか分かる人と、「そんな名前聞いたこともない」っていう人と、真っ二つに分かれるところがすごく気に入ってる。この曲は、自分自身のために、そして助けを必要とする立場にいたことがある人たちのために書いた。できる限り正直でありたかった。メンタルヘルスやその道のりは、いつも「最初は悪いけど、そのうち良くなって、すべてが最高になる」みたいに描かれる。でも現実は、「悪い時があって、良くなって、そしてまた悪くなるかもしれない」って感じだ。それを教えてくれるものが自分には存在しなかった。だから、それをオープンに、そして包み隠さず言いたかった。 Drive Safe (with Niall Horan) ナイル(・ホーラン)は最高だよ。共通の友人に(アメリカのソングライターの)ステフ・ジョーンズがいるんだ。僕とステフが、以前ピート(Pete Fenn)とジェシー(Jesse Fink)と一緒に書いた曲があったんだけど、骨組みはできたものの、どうしても完成させられなかった。ナイルを紹介してもらって、その曲を送って、「どうしてもこの曲を完成させる方法が分からないんだ」って伝えてみたら、彼が気に入ってくれたから、参加してくれないかって頼んだんだ。それで一緒にスタジオ入りしたら数時間のうちに謎が解けて、すべてがしっくりきた。この曲にはたくさんの異なる意味があって、そこが素晴らしいところだと思う。“Drive safe(気をつけて運転してね)”という言葉は、僕たち全員にとってまったく違う意味を持っていたんだ。 Heaven アルバム制作の最後の最後になって出来た曲。僕のエグゼクティブプロデューサーで親友のピートと、親友で共作者のジェシーが、ちょうど2人とも結婚して、子どもが生まれたばかりで、まさに愛の絶頂期って感じで、それにインスパイアされないわけにはいかなかった。2人のことと、彼らが置かれている状況について曲を書きたいと思った。たぶん、僕自身のことを歌っていない唯一の曲だね。 Dying Days これはアルバムの最後の曲になるはずだった。「今まで観たすべての恋愛映画のエンドクレジットを書くとしたら、どんなサウンドになるだろう?」って考えた。それで2週間かけて、たくさんのラブコメディを観た。これは、エンドクレジットのシーンを書くという僕の夢を実現したもの。ラブコメディを夢中で観ている僕自身なんだ。僕の映画、つまり僕のアルバムのエンディングにふさわしい曲で、すごくしっくりきた。 Lifetime このアルバムには、18歳から23歳までの僕について歌った曲が多くなった。これは以前経験した恋愛の話だけど、そのことについてのセラピーの記録を読み返してみたら、まさにその瞬間に感じていたことがそのまま書いてあった。10代後半から20代前半は確かにつらい時期で、困難で複雑なこともたくさんあった。でも、僕という人間を形作って、今の僕にしてくれた、本当に素晴らしい部分もあったんだ。 ディスク2の収録曲 ここには、僕のキャリアにおけるちょっとしたチェックポイントになる曲が並んでいる(ディスク2には過去のシングル4曲と、未発表曲「Dublin Lights」を収録)。いわば第一章のあらすじとしてうまくまとまってる。「Dublin Lights」から始めたのは、スティーヴ・マック、エド・シーラン、Peter Fennと一緒に書いた曲だから。ずっとエド・シーランと曲を書きたいと思っていたから、「やったぞ。最高だ、これを入れるしかない」って感じだった。ここにある曲はいずれアルバムに入れることになると思っていたけど、ここまで来るのに思ったより少し時間がかかった。クリエイティビティは急かせないからね。だから、ディスク1と2という構成にしたのは、間違いなく「言いたいことは分かっているけど、ここまでたどり着いた道のりを省略するわけにはいかない」っていう思いからなんだ。この旅路を誤って伝えたくなかった。