

「ライブ会場に足を運んでくれる方々とのコミュニケーションをすごく欲しているアルバムです」。Mr.Childrenの桜井和寿(Vo/G)は、22作目のアルバム『産声』についてApple Musicに語る。「前作『miss you』は孤独感の強い作品で、それを携えて回ったツアーはどこか閉じた空気があり、僕らはリスナーとの交流に飢えていた。だから、今回はみんなで歌えるメロディが自然と増えていきました」。ライブへの渇望は、1曲目の「キングスネークの憂鬱」からすでに満ちている。鈴木英哉(Dr)は「デモを聴いた瞬間、ライブの光景しか浮かばなかった。これが一発目に来たら絶対気持ちいいと思って、開放感を意識してたたいた」という。田原健一(G)も、本作のキーワードは“ライブ感”だったと明かす。「ライブで楽しんでもらうにはどんなアルバムにすべきか、ずっと考えていました。レコーディングでも歌の世界に反応しながら、セッションのように音を重ねた。メンバー同士で話し合ったわけじゃないのに、自然とライブ的な音になっていきました」 ベテランと呼ばれる域に達してもなお、4人が互いを刺激し合う関係性は変わらない。中川敬輔(B)は「今も桜井から届く新曲と向き合う瞬間が一番楽しい」と目を輝かせる。「自分のアプローチを考えて、3人に聴いてもらって反応を見る。その積み重ねがずっと続いていて、年を重ねるほど楽しくなっている」。バンドのみずみずしいエネルギーが宿る本作について、ここからは、4人にいくつかの楽曲について語ってもらおう。 キングスネークの憂鬱 中川:前作『miss you』から解き放たれるようなオープニング。曲の世界観はデモの段階でしっかり固まっていたので、向かうべき方向は早くから見えていました。その上で、ベースがどう共存できるのか、どんな音像にするのかをかなり模索しました。 桜井:歌入れをしている時に気付いたんですが、この曲は“カ行の無声音”を言いたくて歌っているところがある(笑)。「心の中に巨大なキングスネーク」とか、どうしても言いたかった。通常、ボーカルの摩擦音は消すことが多いのですが、この曲ではあえて残しています。 Again 桜井:イントロのピアノが今どきらしくないほど大仰で、「でもこの感じ、やっぱり好きなんだよな」と思って、自信を持って進めました。イントロを生かすために静かなBメロを作ったんですが、その時はポリスのスチュワート・コープランドを思い描いていました。JEN(鈴木)の見せ場として、長いBメロがあります。 鈴木:「桜井は絶対スチュワート・コープランドを求めてるな」と思って、ニヤニヤしながらたたいていました(笑)。倍テン(一定のリズムで刻みを倍にする奏法)になっていくので、録音しているうちに意識がどんどん入り込み、気付いたら終わっていた。激しいリズム構成なのでライブは大変そうだけど、その分やりがいがあります。 Saturday 田原:今回のツアータイトルは『Saturday in the park』で、“the park”はコンサート会場をイメージしています。みんなの週末を喜びのあるものにしたい、という思いがすごく強い。犬や羊の鳴き声を入れたのは僕で、自分でやりながら面白くなって笑ってしまいました(笑)。 桜井:「締め切ってた窓を 全部開け放って 自由の匂いでも嗅ごうか」という歌詞は、窓を開けて空へと目線が向かっていくアングルをイメージした。田原が入れたのは地上の動物の声だったので、僕はさらに鳥の鳴き声を足しました。 Glastonbury 桜井:曲がどんどん展開して旅しているようだったので、聴いている人が感じるイメージを日本じゃないところに飛ばしたかった。ちなみに主人公が観ているのは、2002年のグラストンベリーのコールドプレイ「Yellow」です。 禁断の実 中川:自分の中の呼吸感と、この曲が持つ呼吸感がなかなか一致せず、かなり迷いました。でも、曲全体に壮大な歌の世界を感じて、そこにちゃんと自分がいるイメージでサウンドを作りました。サックスは桜井さんが吹いています。 鈴木:デモ録りの延長線上で、俺だけ先に録音して、そこに他のメンバーが呼応するように重ねていった。コール&レスポンスみたいな感じで、かなりセッション的でした。 Stupid hero 桜井:自分で歌詞を書いていても、「こういう思いで書きました」と明確に言い切れないところがある。言葉以上に、メロディやアレンジ、演奏そのものが物語ってくれることがあると思っていて、その“音楽の魔法”を信じてやっている。この曲でいえば、悩んでいる自分が「こんな小さな悩みを抱えて、俺って愚かだな」と思えたら勝ちだな、という感覚があります。 田原:アレンジはかなり独特で、曲調もありそうでないタイプ。ブラス風のアレンジがバンドと面白く絡んでいて、僕らとしても会心の出来だと思っています。 産声 田原:この曲はアルバム制作の一番最後に完成しました。それまで「何かが足りない」と感じていたけど、待っていたものがついに訪れたような、奇跡的な瞬間でした。 桜井:最初はメロディだけがあって、曲の終わりをあれほど開放的に終えるのは初めてで、「これはちょっと恥ずかしいぞ」と思うくらいだった。そこにどんな言葉が合うのかを試行錯誤した結果、「産声」という言葉が出てきた。曲が完成し、アルバムタイトルを考える段階で、田原が「アルバムタイトルは『産声』がいい」と提案した。『miss you』という閉じた世界の中にいたものが、産声を上げて外へ踏み出そうとする曲だと思います。 家族 桜井:アルバムの曲が出そろった段階で、それぞれ曲順を考えていたんですが、今回採用されたのは田原の案でした。最初は「最後が『家族』?」と驚いたけど、実際に通して聴いてみたら、すごくよかった。どうしてそう感じたのか、言語化するのは難しいけど。これは僕らの実年齢を映した、一番等身大の歌だと思います。