

「いろんなことがあるみんなの日常に溶け込んでいってくれたらいいなと思います」。にしなは、サードアルバム『日々散漫』についてApple Musicに語る。前作『1999』から約3年半、彼女はライブツアーを続けながら途切れることなく楽曲を発表し、その歩みには、日々の移ろいのように少しずつ変化していく繊細な心の動きが刻まれていた。アルバム制作にあたり新録の8曲を加え、全21曲が出そろった段階で「まとめるのがすごく難しかった」とにしなは振り返る。「悩みながら聴いているうちに、アルバムを構成する曲たちが大きく分けると日常的な側面とカオスっぽい側面の二つの軸でできているなと思うようになって。この二つを合体させる言葉を考えた時に、ふと『日々散漫』というワードが浮かんできました」 日々のリズムや感情のグラデーションを描く楽曲には、その瞬間を生きるにしなの心が克明に投影されている。彼女の放つ色彩を、Tomi Yo、Yaffle、関口シンゴ、ESME MORIらプロデューサー陣が、それぞれの解釈で豊かな響きへと昇華させた。人生には答えの出ないことが多く、人は思索に浸り、時には思い詰めたりもする。そんなとき、気持ちや考えが定まらない“散漫”という言葉を思い浮かべると、自分を少し引いた位置から見られるようになり、ふっと気持ちが軽くなる。「自分自身もいつも散漫とした中で曲を作っている」と語るにしなが、揺らぎながら紡いだ21編のストーリー。ここからはいくつかの楽曲について、彼女自身に解説してもらおう。 weekly ミュージシャンの生活だと1週間という概念はあまり存在しないので、学生時代を振り返りながら書いていました。1週間の始まりに、いろいろ不安なこともあるけどみんなで歌ったら大丈夫そうと思える、みたいなポジティブさに辿り着きたくて。『日々散漫』というタイトルにも通じている部分があると思い、アルバムの1曲目に決めました。 婀娜婀娜 この曲はYaffleさんと制作しました。一昨年と去年はヒップホップでアフロビーツを使ったアプローチが多かったと思うんですけど、ポップスでこのビートに乗っていく人はあんまりいないなと思っていて。自分がアフロビーツを使った曲をやったらどうなるんだろうと思い挑戦しました。ビートを聴いて浮かんできたメロディだったり、言葉の気持ち良さを突き詰めていき、この形になっています。いろんな人が生きてて、いろんな善悪がある中で、自分が誇れるものは着飾った姿よりそのままの姿。だから自分が思うようにちゃんと生きて、誇れる自分でいれたらなって。他人の尺度で決めないで生きれたらいいなと思って書いた曲です。 in your eyes 「in your eyes」というワードが素敵だなと思い、瞳の中で泳いでいる様子と、探り合っている2人の関係性をイメージして書きました。このワードが好きだと思ったところから書き始めることはよくあって、自分がその時に体験している、感じていることを書くときもあれば、想像から書くときもあります。昔、赤い炎より青い炎の方が熱いと習ったけど、人の感情にもどこか似たところがあるかもしれない。 ドレスコード 結婚式だったり、ドレスコードで出かける場面があり、それがすごく素敵な行為だと思ったのがきっかけでした。本来はTPOに合わせて服装を整えるということだと思うんですけど…。結局、恋は一緒にいるかいないかの二択だと思って。さよならを選んだとしても、最後は素敵な自分を覚えていてほしい。それもある種のドレスコードなのかな。 音になっていくよ 「春一番」と「debbie」を手掛けてくれたアレンジャーの永澤和真さんと曲を作ろうということになり、最近聴いてる曲を聴かせ合ったりして着手したんですけど、そこから3年くらい寝かせていたという(笑)。私は日々曲を作ったり歌を歌ったりしているけど、誰かとの会話とかコミュニケーションが本当に音楽になっていくと思っていて。ズレているときも合っているときも、そこで生まれる音を全部楽しみたい。 わをん GeGさん(変態紳士クラブ)が作ってくれたトラックに合わせて書いていきました。愛の形は本当にいろいろあって、自分にとっての愛とか、他の人が思う愛とか、いろんなものを書き連ねると面白いんじゃないかと思い、書き始めました。「あい」は、五十音の最初の2文字だから、音としては一番初めに学んでる。難しく考えすぎてるけど、「あい」ってすごくシンプルなのかもしれない、みたいなところから1行目を書いています。 今日も今日とて (remix) 元はキャンペーン用に作った15秒の短い曲で、高校生だった頃を思い返しながら書きました。毎日泣いたり笑ったり、渦中はいっぱいいっぱいだったかもしれないけど、振り返ったら楽しかったと思いながら。リミックスはプライベートでも仲良くしていただいている、PARKGOLFさんにお願いしました。PARKGOLFさんの人柄が出ているリミックスで、もしかしたらアルバムで一番かもというぐらい気に入ってます。 つくし 獣医学生を描いたドラマの主題歌として書き下ろした楽曲で、そのドラマの主人公はもともと引きこもりがちな子だったけど、おばあちゃんが背中を押してくれて一歩を踏み出せたんですよね。そんな自分の背中を押してくれる存在も、いつかいなくなってしまうかもしれないから、面影の優しさに触れながら成長していきたいなと思い、自分の人生とも重ねながら書きました。 グローリー きっかけは本当になくて、ナチュラルに生活の延長で書きました。人の気持ちとか戦争とかその裏側にある事情とか、私には分からないし、知識があるわけじゃないから自分が何を語れるんだと思い生きてきたんですけど、でもふとした時に、自分の中ではっきりと分かることもあると思って。好きな人たちのそばでできるだけ穏やかに生きれるだけ生きたいということが、一番シンプルにはっきり分かることだと思い、それを書きました。部屋の片隅で歌ってたものを、気付いたら誰かが歌ってくれたりすることが、音楽をやっていて幸せなことです。 Twinkle Little Star 自分自身が弾き語りから音楽を始めたので、アルバムの最後は自分のルーツに近いシンプルな形で締めくくりたいなと思ったのと、今の自分の現在地がこの曲にあると思い、最後の曲に選びました。ずっと見てる人がいたら気付くかもしれないですけど、ちっちゃい星が消えても大体は分からないじゃないですか。それは人間の命にも重なる。気付いてもらえない悲しみもあるけど、だからこそ私たちは自由にどこにでも行けるし、可能性でもあると思って書いた楽曲です。