

台湾のインディーバンド、落日飛車(Sunset Rollercoaster)は、『SOFT STORM』のリリース以来、多忙な5年間を過ごしてきた。5人組の彼らは台湾のグラミー賞と言われる金曲奨(Golden Melody Awards)で最優秀バンド賞を受賞し、その後もコーチェラへの出演や、批評家から絶賛された韓国のインディーバンドHYUKOHとのコラボレーションアルバム『AAA』、さらに大規模なツアーが続いていた。その活躍ぶりから、2025年の『QUIT QUIETLY』というタイトルは、ノンストップのジェットコースターのような日々への反動だと解釈したくなる。「特定の段階に別れを告げて、口より手を動かしてもっと曲を作っていく段階への緩やかな移行だと言える」と、リードシンガー兼ソングライターの曾國宏(Tseng Kuo Hung)はApple Musicに語る。「このアルバムは、日記とか雑談みたいに、日常生活のスケッチやアイデアの断片が詰まっている感じがする」 バンドの特徴であるジャズ、ブリットポップ、サイケデリアをふんだんに盛り込み、キャッチーなポップチューンに仕立て上げたこのアルバムからは、ソングライティングへの原点回帰ともいえるアプローチが見て取れる。過去にはドラム、シンセサイザー、ベースのパートを完全に肉付けしたデモを作成していた曾だが、制約の価値を理解するようになり、アコースティックギターのみでアイデアを固めるようになった。「今回は、スタイルやアレンジを事前に計画することはあまりなかった」と彼は言う。「曲自体がそれを決定付けたんだ。完成したメロディと歌詞を基に枠組みを作ったものもあれば、スタジオでバンドと一緒に自然発生的にアレンジしていったものもあった」。HYUKOHのOHHYUKやインディーアーティストの安溥(Anpu)といったコラボレーターについても同様だ。「曲によっては、まだラフな状態の音源で友達に渡していたから、自然に物事が進んでいった」と曾は語る。 アルバムタイトルから投げかけられた挑戦を受け止めるように、オープニング曲の「Wind of Tomorrow」は、“明日の風が吹く”という心強い日本のことわざを、前進していく夢を描いたブリットポップへと転換させ、その心情は「Mistakes」の催眠的な高揚感の中にもこだましている。曾はまた、日常生活の思いがけない出来事に哲学的なユーモアを見いだし、「Humor Tumor」では陰性結果を待つ間の悩ましい思いを掘り返し、「Piccolo Amore」では小型犬イタリアン・グレーハウンドの視点に立ち、甘いジャズバラードを歌ってみせる。 さらにバンドは2019年のEP『VANILLA VILLA』で描いた宇宙的なテーマに立ち返る。「Satellite」ではリア・ドウのハーモニーをフィーチャーしたチェンバーポップの哀歌を宇宙犬ライカに捧げ、ケタガラン族の起源神話にインスパイアされた「Grow」ではカントリーサウンドに甘い彩りを加えるBDCのコーラスと共に、宇宙人との異星間ラブソングを作り上げた。そしてドラマーの羅尊龍(Tsun Lung Lo)と共作したスペースロックジャム「Charon’s Gone」では、近付いたり離れたりする冥王星とその衛星との不安定な関係を描いている。しかし、空高く舞い上がろうと、地に足をつけていようと、曾が英語でつづる歌詞には独特の暗示的で印象派的な魅力がある。「ストレスの多い旅行中に、キーワードを書き留める癖がある」と彼は言う。「それから、いろいろと思いを巡らせながらそのインスピレーションを研ぎ澄ませておいて、最終的には、静かな夜に落ち着いて、それを曲にしていく」 落日飛車は、決して“クワイエット・クィッティング”(熱意ややりがいを失くして必要最低限の仕事をこなすこと)を宣言しているわけではなく、単に新たな領域へと歩みを進めているのだ。「台湾では、自分たちのバンドの人気は常に、知る人ぞ知るシーンに限られていた」と曾は言う。「それでも、僕たちはこれからも自分たちのままでいるつもりだ。以前の華やかさと比べると、今回のアルバムには時間が経つにつれて表に出てきた成熟感があると思う。でも、そのクールさの中に、まだロマンスが残っていると信じたいんだ」