Luminescent Creatures

Luminescent Creatures

「発光生物という、光を内側から発している生き物について書いています」。シンガーソングライターの青葉市子は、8作目のオリジナルアルバム『Luminescent Creatures』についてApple Musicに語る。この幻想的な作品を語る前に、まずは2020年リリースの前作『Windswept Adan』(邦題:アダンの風)の話をしよう。青葉が沖縄の島々を巡った体験から着想を得た『Windswept Adan』は、作曲家の梅林太郎、写真家の小林光大、エンジニアの葛西敏彦とチームを組んで制作された。その静かでイマジネイティブな音楽は、日本のみならず世界中のリスナーを魅了し、ヨーロッパやアメリカでツアーを行うと熱い歓迎を受けた。 青葉は前作のラストナンバーに「Luminescent Creatures」(邦題:アダンの島の誕生祭)というタイトルを付けている。そしてその後も島々を訪れ、より深い音楽の世界を目指して泳ぎ続け、あらためて“発光生物”というモチーフに着目した。「地球が誕生して最初に生まれたプランクトンたちは、最初はただ漂っているだけだったけど、自分が何かを伝えたいと思った時に光るという選択肢を取り始めた。その姿がとてもいとしいと思いました」。そして青葉はこの世の秘密を明かすように、言葉を続ける。「なぜ光ったかというと、自分がたった独りだと気付いてしまったから。生物の進化としてはすごく当たり前でシンプルな流れだと思いますが、とてもロマンチックなストーリーだと感激しました。私たちの中でも、感情が高まった時や、誰かを愛したり好きだと思ったりする時、細胞のどこかがぴかっと光るような気もする。そういう心や体の一番最初の反応みたいなものを尊重できたらと思い、このタイトルを付けました」 今回のアルバムも前作と同じチーム体制で制作された。「前作からだいたい4年たっているけど、その間もかなり濃く日々創作を続けてこられた方」と青葉が信頼を寄せる梅林太郎と共同作業を行っている。まず初めに青葉がデモを作り、それから作曲家の梅林太郎と共にさまざまなアプローチを試みながら進めていく。青葉がギターを爪弾きながら鼻歌のように口ずさむデモを聴いた梅林が自由にアレンジを加えたり、2人でパートを分けて制作したり、それぞれに書いた曲を融合させたりする。小林光大の写真から得るインスピレーションも、エンジニアの葛西敏彦が創り出す音の造形も、今作になくてはならないものだった。「地球に誕生した生物のストーリーが私たちの中にも存在していることを意識しながら、いろんな方とアンサンブルを奏でた。これは“私たち”のアルバムだと思っている」。悠久の時の流れを感じさせる本作について、ここからは青葉自身にいくつかの楽曲を解説してもらおう。 COLORATURA 歌詞が後半にちょっとだけありますが、とても感情的にボーカルアレンジをしています。あまり言葉には引っ張られず、それよりも生き物たちの点滅だったり、生きている震えみたいなものを表現したかったので、そこに焦点を合わせました。ボーカルアレンジをする時は、その楽曲が持っている世界に耳を澄ませて聴くことを意識しています。 24° 03' 27.0" N, 123° 47' 7.5" E タイトルは緯度と経度で、灯台を指しています。ギターをポロポロンと弾きながら波照間島の民謡を歌った音源を梅林さんが聴いて、アレンジメントを足してくださいました。民謡を歌うことについて大きなこだわりはまだなくて、ある場所にたどり着いてリサーチする中で、自然に入ってきたものを取り入れています。友達が歌う鼻歌がいいからまねして歌ってみたくらいの気持ち。それがたまたま波照間島の神行事で歌われる歌だったという感覚です。私たちはこの曲を「ウイティ」と呼んでいます。 mazamun タイトルは“魔物”のことで、“マザムン”と読みます。島で仲良くなった方が「家にマザムンがいるんだよ」という話をしてくれた。みんなマザムンを怖がったり嫌がったりすることもあるみたいだけど、「この辺にいるんだよ」と教えてもらった場所は全然怖くなかった。その時、“怖い”というのは、何か怖いと感じる対象そのものというより、怖いと感じる人の気持ちの話なんだなと思いました。島のねえねたちと話していたら、マザムンと仲良くなれると思ってる人もやっぱりいて、私はそれがとても美しいなと思った。だからこの曲も、怖いと感じていたものが実は友達なんだとか、実は本当の理解者だったりして…という視点で書いてみました。 tower 私と梅林さんが半分ずつ書くという特殊な作り方をしました。私が前半部分を書いて、後半は梅林さんと交代交代。でも交換して書いたとかではなくて、それぞれが同じ日にワルツを書いていて、キーも同じだったから、ガッチャンコしてみました。 FLAG 私はほとんど歌詞を先に書くので、その言葉が持つ風景や情景から曲のイメージが呼び起こされることが多いです。ある程度物語ができていて、その物語に対してどんなサウンドトラックがあったらいいだろうと考えます。この曲はすごく暗い世界、本当に明るみのない夜の暗さの中で、旗が風でバタバタなびいているような様子を想像して作りました。 Cochlea いつもお衣装を手掛けてくれる方や役者のお友達と「クジラに会いに行きたいね」という話になり、奄美大島へ行きました。そこでクジラの親子と一緒に泳ぎ、彼らの姿が見えなくなった後も、船長さんが水中マイクを海の底の方に落として声を拾い、船上のスピーカーで聴かせてくださった。それをiPhoneで録った音を使っています。実際はもうちょっとクリアなんですけど、何層かのエフェクトが掛かってこの音になっています。