

Fred again..として知られるFred Gibsonは、その並外れた才能をあらゆるジャンルに応用できるアーティストだ。リトル・ミックスやリタ・オラといったキラキラしたポップのプロダクションから、George Ezraやエド・シーランのような大衆受けするラジオ向きのヒット曲、さらにはStormzyやAitchをフィーチャーした重低音のUKラップや、スクリレックスやスウェディッシュ・ハウス・マフィアとの電撃的なクラブコラボレーションまで、実に多岐にわたる。そうした他のアーティストを輝かせる天賦の才能を持つ一方で、Gibsonの真骨頂は音楽でつづる日記作家とでもいうような、自分を取り巻く世界をサウンドで写し取ってみせるところにあり、それはすでに連作アルバム『Actual Life』で実証済みだった。『ten days』は、そんなグラミー賞受賞歴のあるプロデューサーの彼にとって、新章の幕開けとなるアルバムだ。瞑想的なエレクトロニカが10曲に切り分けられ、それぞれに隠し撮りや即興と思われる音声の短いインタールードが先行することで、手触りのある音楽体験がもたらされる。 ソフトなグルーヴと心を揺さぶるボーカルパフォーマンスを前面に押し出しつつも、『ten days』はブライアン・イーノに師事したGibsonのルーツであるアンビエントミュージックから大きくかけ離れることはない。夢見るようなラブソング「adore u」でObongjayarの比類なき歌声を最大限に活用する一方で、「fear less」でのサンファの控えめなボーカルは太陽で温められた空気中を上昇して、最後には大気圏を抜けて冷たい宇宙で響き渡るようだ。逆に、「just stand there」はSOAKの痛烈なスポークンワードの中を急降下して、ガタガタと音を立てて大気圏に再突入しながら勢いを増しクライマックスを迎える。 アルバムの中間、「places to be」にアンダーソン・パークとCHIKAがもたらす生き生きとした情熱がエネルギー転換の合図となり、後半はより高揚感のあるエモーショナルなビートに支配されていく。Four Tet、スクリレックス、Duskusというダンスミュージック界の大物がそろった「glow」はレイバーの期待に応え、アンセム的な「peace u need」にはJoy Anonymousがいかにも彼ららしい無限の歓喜という花を添えている。その一方で、「where will i be」のリミックスではエミルー・ハリスのオリジナル音源から明るい楽観主義を剥ぎ取り、より歪(ゆが)んだ実存主義的なものへと再構築してみせる。 目覚ましい成功を収めたにもかかわらず、Gibsonはありふれた日常のノイズにも心を揺さぶるサンプリング音源の可能性を見いだそうとする根っからのDIYプロデューサーであり、こうしたロマンチックな傾向が途中で失われなかったのは喜ばしいことだ。『ten days』によって、彼は孤高の存在と思われるほど高尚なレベルの成功を手に入れるかもしれないが、繊細なアタックを生むドラムスティックで叩いたようなハイハットや共鳴するベースラインといった、彼の見識ある芸術的選択がエッジを和らげ、Fred again..の核心ともいえる親密さやリスナーとのつながりは大切に守られている。