

ドメニコ・スカルラッティは、バッハやヘンデルと同じ1685年にナポリで生まれた。父アレッサンドロは、バロック時代にオペラのナポリ楽派を確立した偉大な人物。ドメニコもミサ曲など美しい声楽曲を作曲したが、彼の非凡な才能を表しているのは、何といっても550にものぼるチェンバロのための作品の数々だろう。バロック時代に特有な対位法へのこだわりがなく、即興で思いつくまま自由に紡いでいったような旋律や和音。演奏者には鍵盤上での手の交差や、急速なアルペッジョを要求する。彼自身、チェンバロの名手でもあったのだ。陽気さにあふれながらも時折顔を見せる陰りのある音楽は、生涯の多くをポルトガルとスペインで過ごしたことが影響しているのかもしれない。