Nick Cave & The Bad Seeds

2010

プロデューサーにFloodを迎えた通算5枚目のアルバム。代表曲の一つ"The Mercy Seat"のパワフルなオープニングも手伝って、バンドの初期キャリアの中でも特別な輝きを放つ傑作。冒頭、性急に繰り出す言葉で呪いをかけるようなケイヴのヴォーカリゼーションは特に象徴的だが、その他の曲も集中力の高い佳曲ぞろい。ブリクサ・バーゲルトと元The Gun ClubのKid Congo Powersの2人によるギタープレイの充実ぶりも手伝い、ワイルドでロウなロックンロールがみなぎる。プリミティブなポストパンク曲"Deanna"を散りばめつつ、"Watching Alice"のような硬派バラードも挿入。Nick Cave & The Bad Seeds入門にも格好の、異形のブルースロックアルバムである。

2004

「Abattoir Blues」から9曲、「The Lyre of Orpheus」から8曲という2部構成の作品。ブリクサ・バーゲルトによるグループ脱退後の最初の作品で、代わってGallon DrunkのJames Johnstonがオルガンで参加している。前半のAbattoir Bluesは、これまでにない躍動を加えるゴスペルクワイアを従えた、ビロードの深い真紅を思わせるハードなゴシックロックアルバムで、ニック・ケイヴのロックンロールシンガーとしてのカリスマ性を堪能できる。一転The Lyre of Orpheusは、ビジョナリーでエキゾチックな作風となり、ウォレン・エリスが演奏するブズーキなど、どこの国とも知れない架空のブルース作品のような味わいがある。インドネシアのクロンチョン風なイントロを携えたカントリーフォーク"Breathless"など、全く飽きさせず最後まで聴かせてくれる。

2001

シンガーとしてのニック・ケイヴがまた一つ上のステージに到達したような快作。メンバーのMick Harveyやウォレン・エリスの演奏家／アレンジャーとしての才を全面開花させた作品でもある。ジャズやクラシックのイディオムに、従前からのハードボイルドなロックアンサンブルも絡めつつ、より明快になったケイヴの詞世界を音楽面で的確にサポート。さらにKateとAnnaのMcGarrigle姉妹が随所で重ねた流麗なコーラスも話題に。"Love Letter"の映画音楽を思わせる秀逸なオーケストレーション。胸を打つバラード"Hallelujah"や、アルバム「Henry’s Dream」に収録されていた"Papa Won’t Leave You, Henry"をリアレンジした"Darker With the Day"には、得もいわれぬ深みと聴き応えがある。

1997

全編にわたってケイヴ自身が弾きつづるピアノをメイン楽器に、シンガーとしてのロマンチシズムがこぼれ落ちる、彼の長いキャリアにおいても重要な一枚。スローなバラードアルバムの体裁をとりながらも、それだけに収まらない引き締まった深さと奥行きを携えているのは、やはり詩人、ニック・ケイヴの真骨頂といえよう。ジャズやブルース、フォークと各楽曲のスタイルは多様だが、それぞれがもはや何風とも言えない虚飾を抑えたアコースティックなアレンジが光る。そこには盟友Mick Harveyをはじめ、The Bad Seedsの力量が感じられる。オープニングの"Into My Arms"をはじめ、ケイヴらしからぬむき出しのテンダネスが胸を打つ感動的なラブソング集。

1994

前作「Henry’s Dream」同様、Einstürzende Neubautenのブリクサ・バーゲルトやThe Birthday Party時代からの盟友、Mick Harveyら、盤石のメンバーで制作されたアルバム。ストレートに愛をテーマにした本作は、後にメタリカがカバーした"Loverman"や、悪魔と交歓するかのようなガレージーナンバー"Jangling Jack"、"Thirsty Dog"といったハードな楽曲が揃う。またルー・リード作品にも通じるロマンチシズムが漂う"Nobody’s Baby Now"や、キャバレー調のラウンジロック"Red Right Hand"、マカロニウエスタン風のギターサウンドが雰囲気たっぷりの"I Let Love In"と、その曲想のバリエーションも豊か。彼の長いキャリアの中でも、ハードボイルドな世界観と切れ味鋭い詞世界、各楽曲のアレンジの充実度で一二を争う傑作といえるだろう。

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