フランク・オーシャンの魅力は、ミステリアスであることだけではないし、自分なりの生き方を貫いているところだけでもない。ましてや、無敵に見える彼のスタイルによるものでもなければ、彼がクイア自認の先駆者として活動している数少ないポップアーティストであることでもない。オーシャンは、オーディエンスの想像の中にある新しいところと遠い過去のところに触れることができる人であり、彼は親密な関係や告白を実に大胆かつ繊細に描き出す。彼の発する言葉に耳を傾ければ、非常にプライベートなことや、言葉にするのが不可能かもしれないことをまるで盗み聞きしているかのように感じるほどだ。彼はまさに、表現不可能に思えることを表現している。ロサンゼルスのヒップホップ集団、Odd Futureの物静かなメンバーだったキャリアの初期においても、オーシャンは、禁欲主義とひときわ輝く非凡な感情的知性を持っているように見えた。彼は、語る以上のことが見えていて、口を開けたら無駄な言葉を言うことはない。1987年に生まれたオーシャン（母親の旧姓であるBreauxになる前の本名はChristopher Cooksey）は、主にニューオーリンズで育ち、2000年の半ばにロサンゼルスに移住して、サブウェイ、キンコーズ、ファットバーガーなどで単調な仕事をこなしながらソングライターとしての仕事を始めようと試みた。2009年までに、彼はDef Jamとの契約を獲得したが、彼の野心にかなう関係を築けなかったため、結局、2011年の初のミックステープ『Nostalgia, Ultra』は自主リリースとなった。ポルノで学費を稼ぐ女学生の曲「Novacane」や、海に飛び込む曲「Swim Good」など、現実世界のさまざまな断片を描き出し、ソウルフルで、面白く、控えめで、詩的な彼は、ミステリアスな雰囲気を全体に漂わせるようなライターだった。カニエ・ウェストやジェイ・Z、Beyoncéから一般人に至るまで、オーシャンはカルト的なフォロワーを獲得した。2012年、彼は『channel ORANGE』を発表。この作品では、スティーヴィー・ワンダーを思わせるソウルや、弦楽器主導のゴスペル、さらにはサイケデリアまで多岐にわたり、R&Bを高尚な芸術音楽に昇華してみせた。ソングライティングもさらに鋭くなり、より無慈悲な「クラック・ロック」や、より表現豊かな「バッド・レリジョン」、よりシュールな「ピラミッズ」など、物語と社会的批評を織り込みながらオーシャンのトレードマークとなった飾らない才気を発揮している。そして、彼の次の活動情報がネット上で神話のように飛び回った4年間を経て、2016年8月に、オーシャンはビジュアルアルバムの『Endless』と、通常の形態のアルバム『Blonde』という2つの作品を同じ週に発表した。『channel ORANGE』がオーシャンの開放的なアルバムだとすれば、『Blonde』は、内に向かい、R&Bというよりもアンビエントミュージックのように感じられるサウンドで瞑想（めいそう）と内観を探求していた。そして『Blonde』を発表してからの数年間においては、オーシャンはApple Musicでの彼の番組『blonded RADIO』で一連のシングルを発表し、それは毎回ちょっとしたイベントとなっていた。内に向かおうが、外に向かおうが、フランク・オーシャンは探求を続けているのだ。