必聴アルバム
- ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーのレコーディングへのアプローチは、1セットの曲を始まりから終わりまで同じメンバーで演奏する通常のバンド形式から、満足できる組み合わせが見つかるまで複数のプレイヤーを入れ替わり立ち替わり呼び寄せて同じパートを弾かせ、そしてまた次の曲も同じような方法で試していく構築的なプロセスへと進化していった。その完璧主義的な手法のため、『Aja』に収められた音楽は、当のスティーリー・ダンですら再現し得なかったかもしれない。R&Bに通じる「ジョージー」や「ブラック・カウ」のグルーヴのタメ、そして、論文のようでありながら、実は一流のダンスミュージックだった「ペグ」などが楽しめる。 1970年代、カリフォルニアポップの霧の中、フェイゲンとベッカーは、いつもR&Bとジャズを聴きながら読書を嗜(たしな)んだニューヨークのヒップスターのように見えた。しかし、ようやく『Aja』で、2人のアイデンティティがはっきりと音楽の中に表れたのだ。また、歌詞の中には印象深いキャラクターが何人も登場するが、中でも「ディーコン・ブルース」に登場したサックス奏者を夢見る郊外住まいの男ほど、スティーリー・ダンの悲劇的なロマンティシズムを捉えた登場人物もそういないだろう。もちろん彼は、はみだし者でしかない。しかし、少なくとも彼には何か信じていたものがあった。それだけは確かだ。
- 1974年にリリースされたスティーリー・ダンのサードアルバム『Pretzel Logic』は、ツアーバンドとしての活動に幻滅しながら、この後、スタジオワークを中心としたプロジェクトへと発展していくグループの二つのキャリアの狭間にある作品となっている。それはつまり、意思を同じくするメンバーが、それぞれのクリエイティビティを持ち寄って独自の表現性を獲得していく1960年代の理想を否定し、ドナルド・フェイゲンがその後にたどり着く「厳正たる実力主義」という言葉からもうかがえるように、バンドの中心メンバーが、各楽曲に貢献できるミュージシャンをそれぞれ自由に雇うという新しい時代性を受け入れていくことでもあった。そして、そのアプローチを導入したスティーリー・ダンは、ある種の冷酷さを持って制作に臨み、耳に残るフックを持つ「バリータウンから来た男」や、ストリングスを取り入れたショートトラック「いけ好かない奴」といった曲でその哲学を応用し、パンチのある本作『Pretzel Logic』を誕生させた。はたして、この『Pretzel Logic』の切れ味はいかほどだろう。後年の彼らの高度な音楽性を知る今となっては、スムースな「気どりや」や耳を引く「リキの電話番号」でさえ、まだ物足りなく感じられるかもしれない。だが本作は、オールドタイムジャズや、懐かしい大衆小説や推理小説のミステリーを思わせる古き良き時代の象徴を、エセ哲学や陰謀論があふれ、ますますナンセンスに混沌としていく世界へと解き放ったという点でエポックメイキングなアルバムであることは確かだろう。この後の彼らは『The Royal Scam』で暗い影を引きずり、『Gaucho』ではまた冷え冷えとするような感覚を作品全体に与えることに成功するが、本作は、彼らの両親や祖父母の世代が愛したクラシックロック的なたたずまいと、地下でうごめく悪漢たちが暗躍する世界の隙間を縫うような作品となっている。その不思議なコントラストも本作のチャームポイントと言えよう。
アーティストプレイリスト
ライブアルバム
ベストアルバム、その他
スティーリー・ダンについて
- 出身地
- Los Angeles, CA, United States
- 結成
- 1972年
- ジャンル
- ロック
