ラッパーのエックスエックスエックステンタシオンことジャセー・オンフロイは、自主制作で発表してきたシングルやミックステープでキャリアを築き、2017年には『17』や、チャートのトップに輝いた『?』でメインストリームに躍り出たが、その『?』リリースの数か月後に惜しくもこの世を去った。南フロリダ生まれの彼は千差万別なアプローチで、いわゆる「サウンドクラウド・ラップ」と呼ばれるシーンをけん引する存在となった。トラップサウンドの空虚感と、エモやフォークに通じるナイーブな感性を組み合わせ、ラップはおろか他のジャンルでもないほどのストレートな表現で、憂鬱（ゆううつ）や自己嫌悪感といった内面の問題を掘り下げた。彼の代表曲である「Look At Me!」や「SAD!」を聴くと、テンタシオンは虚無と暴力、過敏な状態と無感覚の状態といった両極の間で揺れ動いているように感じる。そうしたおぼつかない二面性が特に、自らの感情のはけ口を求める若い世代のファンに共鳴したのだ。テンタシオンは筋金入りの問題児としても知られ、アルバム『?』をレコーディングしたのも妊婦への加重暴行罪の裁判を控えた自宅監禁の最中だった。彼はまた自らの経験に基づいたラップを紡ぎ、良くも悪くも自身のアートに従って生きたボーダーレスなアーティストだった。2018年の6月、彼は銃弾に倒れて20歳の若さでこの世を去った。