2014年のアカデミー賞®︎授賞式で、ジョン・トラヴォルタがイディナ・メンゼルのパフォーマンスを紹介する際に、彼女の名前を読み間違えたのは有名な話だ。だが、ブロードウェイの観客は、世界的な社会現象となったディズニー映画『アナと雪の女王』の立役者となるよりもずっと前から、彼女の名前を知っていた。メンゼルは1971年、ニューヨーク市で生まれ、8歳のころに声楽を習い始めた。プロとしての舞台デビューは、1996年に上演されたブロードウェイミュージカル『RENT』のオリジナルプロダクション。その力強さと正確さが際立つメゾソプラノの歌声と、舞台での魅力やカリスマ性は、『ウィキッド』のエルファバ役でも同様に発揮され、トニー賞のミュージカル主演女優賞を初受賞した。演劇界では引く手あまただった一方で、1998年の『Still I Can’t Be Still』や2008年の『I Stand』のようなソロアルバムでは、シンガーソングライターとして伸び盛りのスキルを披露し、最もセンシティブで感情的だったころのサラ・マクラクランの作品と比較されることもあった。それでもなお、2013年にエンパワーメントアンセム「レット・イット・ゴー」をエルサ役として熱唱するまでは、メンゼルの名前が幅広く認識されることはなかった。知名度が上がったおかげで、彼女はより親密なパフォーマンスに立ち返り、かつてないほどにパーソナルな作品となった2016年の5作目のアルバム『idina.』で、ようやくその実力にふさわしい脚光を浴びることができたのだった。